第61話

「…英語科の先生方から苦情を言われた。この時期になっても、中野さんはやる気が出ないんですかとな」

「もしかして、この前の中間テストの結果の事ですか?」

「それだけじゃない、この三年間全体でだ」


 私は、私を取り巻く環境の一部に対してバカな反抗を続けていた。


 他の科目は真面目に取り組み、そこそこ上の成績を取っているにも関わらず、母の国の言葉――英語の授業だけは満足に受けていなかった。


 ノートは取らない、予習や復習もしない。授業は上の空で聞いているし、嫌いな教師だと仮病を使って保健室に逃げる。当然、テストはいつも赤点だった。


 父が嫌うから、自分は日本人だと主張したいから、クラスメイトにあれこれ言われたくないから…様々な言い訳が私のバカな行動を肯定化していた。


「中野、進学希望だったな?」


 担任が頭を抱えながら言った。


「はっきり言うぞ。こんな成績では…」

「ご心配は無用です、ここを受けますから」


 私は、前々から用意していたある高校の入学案内書を担任に突き出した。県内で一、二を争うほどの偏差値の低さで有名であり、受験生のほとんどが滑り止めとして選ぶような高校だった。

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