第62話

「第一志望、ここにします」

「中野、お前な…」

「私、ふざけてません。真面目に言ってます」


 よほど呆れたのか、それとも諦めたのか、担任はそれ以上何も言おうとしなかった。


 教室に戻ると、クラスメイト達は参考書を見て唸っていたり、どこそこの高校の制服が可愛くてオシャレだなどという話をしていたりして、皆が皆、受験生らしい姿を見せていた。私も同じはずなのに、何だか他人事のように眺めているような気がしていた。


「あっ、中野さん!」


 女子の一人が私に気付いて、走り寄ってきた。


「先生に呼び出されてたんでしょ?進路の話?」

「ええ…」


 私は短く答えた。彼女とはそんなによくしゃべる方ではない。たまたま私が近くに立っていたから、話題を振ってきただけなのだ。その証拠に私が黙っていると、何も知らない彼女は好き勝手に話し始めた。


「…勝手に想像して悪いんだけど、中野さんってS女子校受けるんでしょ?」

「どうして?」

「知らないの?あそこ、国際教養科が新設されたんだって。中野さんチャンスだよ」

「…何の?」

「何のって…。せっかくなのに、もったいないじゃない!」

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