第60話
私と父が二人で暮らすこの家に、母の物は残っていない。唯一残っているのは、居間の壁に飾られている大きな写真一枚だけで、その他の物は全て父が処分してしまった。
周囲の猛反対を押し切ってやっと手に入れた愛が、わずか四年ほどで失われてしまったのだ。深く純粋に母を愛していた父には、きっと耐え難かったに違いない。私に英語での会話を一切禁じ、アメリカに関するような事はわずかなものでも極端に嫌うようになった。
私は、父の極端なやり方に反対はしなかった。いや、むしろ喜んで受け入れていたと言っても良かった。母の事は大好きだが、私は日本人なのだ。皆と一緒、どこも違っていない。何より、父をこれ以上悲しませたくなかった。
そんな事ばかりに気を取られ、母の教えをすっかり忘れていた私は、父と同じく極端になっていった…。
「どういうつもりだ、中野?」
中学三年の春、そろそろ進路を決めなければいけないという時期に、私は担任に呼ばれて職員室に赴いた。彼はひどく怒った表情で、私を睨み付けていた。私が「何ですか?」と問うと、彼は深い溜め息をついてから言った。
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