第59話



「…ねえねえ、中野さん。何かかっこいい英語しゃべってみてよ」


 ああ、また始まった。クラスメイトの女子数人が私の机の周りを囲み、楽しそうに声をかけてきた。


 中学校に入学し、発育が進むにつれ、『皆との違い』はより分かるようになってきた。


 私はきっと、母に似てしまったのだろう。元々色素の薄かった肌はさらに白くなり、白人とあまり変わらない。顔立ちもますます日本人離れしてきた。


 第二次性徴も皆より早く、スタイルもずば抜けてしまっていたので、どの女子よりも目立った。幸いにもイジメを受ける事はなかったが、変に神聖視されるような所があって私は常に困っていた。


「ねえ、中野さん。帰国子女って本当?」

「お父さんとお母さん、どっちが外人なの?」

「外人の彼氏とかいるの?」


 私はどんな質問をされても、ほとんど答えなかった。にっこり笑ってやり過ごすか、巧みに別の話題を持ち出してそちらにすり替えたりして、自分の事はあまり話さないようにしていた。


 騒がれたりするのが面倒で部活動に入らなかった私は、放課後になるといつもまっすぐ帰宅した。会社勤めである父は夕食前にならないと帰ってこない。私は家の台所で二人分の食事を作り、一人で父の帰りを待っていた。

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