第51話

「美希、寂し…ぃ、嫌い。で、も…さなちゃん、大、好きぃ。良ニイちゃんも、さ、さなちゃ…大好き。だ、からぁ、一緒!ずぅっと、一緒ぉ!」


 美希は軽くドアを叩きながら、精一杯の言葉を言い続けた。


 十分ほど過ぎた頃だろうか、ドアノブがガチャリと動く音が聞こえた。開かれたドアの隙間から、佐奈江がそっと顔を出してきた。


「…さなちゃん!」


 美希が、本当に嬉しそうに佐奈江の名を呼んだ。しかし佐奈江はそれには応えず、美希の隣に立つ良をじっと見つめながら言った。


「お兄ちゃんがいない時の、一人でいる部屋が恐い…寂しいよ、お兄ちゃん。美希ぃ…」


 佐奈江の両手がおずおずと伸びてきて、良と美希の腕を弱々しく掴んだ。それを見て美希はキャッキャッと喜んだが、佐奈江の気持ちを初めて知った良は胸が痛んだ。


 良は空いた手で佐奈江の頭を引き寄せ、抱き締めてやる事しかできず、また感謝の思いが大きすぎて、美希にも何も言えなかった。




「美希、あの時と同じ事を…?」


 良が見守る中、美希は何度も「さなちゃん、あそぼ!」の言葉を繰り返し言い続けていた。

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