第53話

「しっかりしろよ、美希!すぐに病院に帰るからな…」


 良は美希を背負おうとして、その身体をそっと動かした。すると、ぼろぼろに薄汚れた美希の上着の内ポケットから一枚の紙切れが滑り出て、はらりと舞うように良の足元に落ちた。


 美希の体調を考えれば、今は一刻も早く病院に戻るべきだろう。しかし、何故か良はその紙切れが気になり、美希を抱えながらそれを拾い上げた。



『さなちゃん ごめん

 みき わるいこ

 でも ええこになる

 だからおっきして

 りょうにいちゃん

 みき ええこする

 なかない ええこ

 だからおこるしないで』



 それは、あまりにも下手な文字で書かれた手紙だった。


 小さな子供が覚えたばかりのような、よたよたした文字。


 『き』や『す』などの文字が、まるで鏡に映したように逆向きになっていて、非常に読みにくい。それでも、この手紙には美希の思いが全て詰まっていた。


『言いたい事あんなら、はっきり言えよ!』


 良は、自分の言い放った言葉を思い出した。

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