第54話

美希は自分の気持ちをなかなか上手く言い表せない。そんな美希が、自分なりに必死に考えてこの手紙を書いたのだ。


 美希が悪い訳ではないのに、全て自分が悪いのだと思い込み、その気持ちを必死で言葉に表そうとして手紙を書いたのだ。上手く鉛筆も持てないのに、必死になって頑張ったのだ。それだけで充分ではないか。


「美希、お前…」


 良の瞳から、また涙が流れた。


 無理に言葉で伝えなくても良かった。そうしようと懸命になってくれただけで充分だった。


 佐奈江があんな事になって、美希が傷付いていないはずがないのに、それを無理矢理言わせようとした自分がひどく恥ずかしかった。


「りょ、うニイ…ちゃ…」


 良の腕の中で横たわっている美希が、あまりにもか細い声でゆっくりと時間をかけながら言った。


「わ、わ、私、のせいで…ご、めん…」


 美希の瞳からも涙が溢れた。それが生理的なものか、それとも感情によるものかは分からなかったが、その涙はますます良を切なくさせた。良は美希を抱きかかえたまま、全く動けなくなった。


 どれほど時間が過ぎただろうか。ふと、二人の後ろから誰かが近付いてくるような気配を感じた。気配の持ち主はすぐに二人に気付いた様子で、足早に駆け寄ってくる。良は肩越しに振り返り、その人物を見やった。


「あの…、どうかしたんですか?」


 覗き込むように身を屈めてきたのは、茶色の髪を靡かせた一人の少女だった…。

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