第55話

† † †


「…どうかしたんですか、良君?」


 ニコニコと微笑みっぱなしの美希を凝視している良を怪訝に思い、亜利寿が声をかけた。すると良は何故か苦笑いを浮かべて、「同じ事言ってらぁ」と言葉を漏らした。


「えっ?」

「亜利寿、俺達と初めて会った時も同じ事言ったよなぁ。『どうかしたんですか?』って…」


 亜利寿は、良と美希の二人に初めて会った時を思い出した。


 あの時は、本当に驚いた。遊びに出かけた帰り道で、まさか怪我人を抱えている人を見つけるなどとは夢にも思わないし、今、こうしてその二人と共に夜間学級で学ぶ事になるとも思わなかった。


 『一期一会』…人と人との出会いは一生に一度だけ。だから尊いのだという意味の言葉。亜利寿はこの言葉が好きだった。あの時ほど、それを痛感した事はなかった。


「良君」


 自分の肩を撫でる茶色の髪を軽く掻き上げながら、亜利寿は言った。


「私達、明日見えられる方とお友達になれたらいいですね」

「ああ…!」


 良が肩越しに振り返った。

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