第14話

しかし、良と佐奈江のコミュニケーションは日を追うごとに減っていった。


 いくつもアルバイトをかけもちしている良は佐奈江が目を覚ます前に出かけていき、彼女がもう寝ようかという深夜に帰ってくる。


 遅い夕食を手早く平らげ、狭い風呂場でさっさと入浴を済ませて寝てしまうという生活パターンとなっており、まだ精神的にも幼く、両親を失った心の傷が癒えていない佐奈江にどれだけ寂しい思いをさせているかなど、二十歳という若さゆえか、良は気付くどころか気に病む余裕さえ無くしていた。それを気付かせてくれたのが、波根川美希という一人の少女なのだ。


 その事を充分承知しているだけに、良は苦笑いを浮かべながら、昼食を摂る準備を始めた。あの電話が、妹との最後の会話になるとは夢にも思わずに。



「…美希ちゃん、もうすぐ三時だよ~!」


 鈍い機械のモーター音が、さほど広くない工場内で断続的に響いている。その一角で極細の長い麺を幅の広い包丁で切り分けていた中年の男性が、少し離れた所でそれの包装作業をこなしている背の低い少女に大声で話しかけた。


 しかし、手作業に熱中している少女は男性の声など耳に入っておらず、絶えずニコニコと笑いながら手を動かしている。

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