第17話

麺工場の小さな敷地から出ると、すぐ目の前には幅の大きな二車線道路が長く続いていた。


 この付近は深夜になるまで交通量が耐えず、たびたび事故が起きる。近くにある小学校の通学路ともなっているので、保護者やPTAが毎日交代で登校する子供達を誘導させているほどであった。


 美希は彼らのそんな様子をぼんやり思い出しながら、道路を西へと少し歩いた。すると、いくらかも歩かないうちに横断歩道が見えてきた。


 真新しい白のペンキで塗り替えられたばかりの横断歩道が何だか嬉しく、ついつい小走りに駆け出したが、ある事を思い出した美希の両足がゆっくりと止まった。


『美希ちゃん、いいですかぁ?』


 幼い頃、擁護施設で自分の世話をしてくれた教師の言葉が頭をよぎった。


『横断歩道を渡る時は、どうするんだったかな~?』

「み、右見る。左も、見、見る。も一度右見て…。青信号、になったら、手、手を上げて、渡ります!」


 教わった事を忠実に口に出し、美希は左右の安全確認をした。時折、何台かの車がスピードを上げて自分の目の前を通り過ぎるのには驚いたが、歩行者用の信号が赤から青へと変わり、車が走らなくなったのに安心して、 右腕をまっすぐ上に伸ばしながら横断歩道を渡った。

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