第16話

「昼休み、ポケベルしてたろ。誰かと待ち合わせ?」


 男性は、美希が持っているポケットベルを指差した。


 携帯電話の普及でぱったりと見なくなったポケットベルだが、美希にとっては必要不可欠な存在だった。


 コール音が鳴っていても自分の物だと気付く事が少なく、普段の話し声も詰まりがちで聞き取りにくい為、日を追うごとに多機能化してくる携帯電話を美希が扱う事は難しい。


 美希は外出する際は必ずポケットベルを持ち歩き、誰かからの連絡があれば、どんな些細な事でも必ず返事を返す。昼時の事、工場の敷地内の公衆電話に噛り付くようにしてボタンを押していた美希を見かけていたので、男性はそう尋ねてみたのだ。


「もしかして、ボーイフレンド?」


 あまりにもお決まりな言葉をかけてみたが、美希は動じる事もなく、小さく首を横に振った。


「さ、さなちゃ…から、です」

「さなちゃ…?」

「さな、ちゃん…お迎え、です!」


 そう言うと美希は男性にぺこりと深くお辞儀をして、そのまますたすたと事務室を出ていった。その際も、彼女の顔からニコニコとした笑みが消える事はなかった。

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