第37話
野良犬の姿が完全に見えなくなった途端、火が付いたように佐奈江が大声を出して泣き始めた。その泣き声に、鉛のように重くて動かなくなっていた良の足がびくんと反応した。
「佐奈江っ!」
良は急いで砂場に走り寄り、泣いている佐奈江を抱き締めてやった。よほど恐かったのだろう、佐奈江の小さな両手は良の肩をぎゅっと掴み、引き付けを起こしそうなほど泣いている。
「りょ、良…お兄ちゃ…!」
「もう大丈夫だぞ、犬はもういないからな」
佐奈江の頭を優しく撫でながら、良は小さな人影に目を向けた。一言お礼が言いたかった。しかし、良は子供心に不思議な違和感を感じ、すぐには何も言えなかった。
人影はやはり、佐奈江と同い歳くらいの小さな女の子だった。
しかし、佐奈江とは何かが違う。無表情に近いのだが、何が不思議なのか、きょとんとした瞳で良と佐奈江を見つめ続けている。佐奈江を守ってくれていた両腕はまだ広げたままで、時折、「んぅ?」と小さな声を漏らし、首を傾げている――。
「あ、あの…」
良が口を開きかけた。とにかく、お礼の言葉を言わなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます