第38話

「ありがとうな?妹、助けてくれて…」

「……」

「お前も、恐かったろ…?」

「…んぅ?」


 やはり女の子は小さく声を漏らすだけで、他には何も言わない。まだ子供だった良も、これ以上のお礼の言葉が思いつかなかった。


 どうすればいいか分からず黙っていると、公園の入り口の方から誰かが小走りに近寄ってくる気配を感じた。


「美希ちゃん!」


 やってきたのはエプロンを着けた女性だった。一瞬、良は女の子の母親かと思ったが、その女性は十代後半から二十代前半といった感じで若すぎる。それにエプロンの胸元に名札が付けられているのも気になった。


「…ダメじゃない、美希ちゃん。一人で勝手に行っちゃ。先生、心配したんだから」


 エプロンの女性はゆっくりとした口調で話しながら、女の子の頭を優しく撫でている。女の子はまだ無表情で、されるがままになっていた。


「あなた達」


 女性が良と佐奈江を振り返った。


「何も迷惑じゃなかった?ごめんね、でも許してあげてね」


 いつのまにか佐奈江は泣きやみ、女性と女の子を交互に見つめていた。良は女性の言っている意味がよく分からなかったが、とりあえず黙って首を横に振った。が、次の瞬間、良は綺麗なものを見た。女の子が満面の笑みを浮かべていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る