第39話
「…み、きぃ…」
女の子は広げていた両手で自分の胸を軽く叩きながら、そう言った。
「みき…ぃ。み、き。…み…き」
みき?美希…、この子の名前か?自己紹介のつもりなのかな?そう考えた良は、自然と言葉を口に出していた。
「俺は良。こっちは妹の佐奈江。よろしくな」
「…りょ、りょ、う。…さな…」
かなりの時間をかけて、女の子は二人の名前を繰り返した。名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、佐奈江もにっこりと笑いながら、うんうんと頷いていた。
(何だ、話せんじゃん…)
ほっと一息つき、良は視線を女の子から女性に向けた。さっきの事を話して、もう一度お礼を言おうと思ったのだ。しかし、良はまた何も言えなくなった。女性が泣いていたのだ。
「み、美希ちゃん、喋ってる…。初めて会った、子に…心を…!」
この時の良には、どうして女性が泣いているのか全く分からなかった。
佐奈江と美希は向かい合って、互いをじっと見ている。この二人が仲良く一緒に遊ぶようになるまでさほど時間はかからなかったが、良が美希の事情を知り、正しく受け止める事ができたのは、この一年ほど先の話だった――。
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