第40話
アパートの自室に戻った良は、とりあえず替えの服を探した。
ずっと佐奈江の側にいたので入浴すらしていなかった。かといって、自分一人だけ湯ぶねに浸かって一息つく気分には到底なれず、上半身だけ裸になって濡れタオルで拭い、新しい服に着替えた。
着替えを済ませると、良は部屋の中を一瞥した。
ほんの数日前まで、この部屋には自分の他にもう一人の住人がいた。
この部屋で一緒に生活するのが当たり前の存在だった。いつかあいつに好きな男ができて、結婚して出ていくまでの間は、ずっと続くはずの空間だった。それなのに、刑事や医者から告げられてくるのは、それをいとも簡単に打ち崩すものばかりだ。
良は部屋の中心にある小さな卓袱台に身を伏せた。食事の時以外、佐奈江はこの机で勉強をしていた。大学を出られなかった兄の代わりに、自分が大学を卒業する。それが佐奈江の夢だった。
悔しくて悲しくて、良の目から涙が溢れた。卓袱台に付したまま、声を殺して良は泣き続けた。
涙が枯れると思うほど泣き尽くした頃、猛烈な眠気が良を襲った。頭を振って払い除けようとするが、眠気は徐々に色濃くなり、良はそのまま深い眠りに落ちてしまった。
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