第35話


 良と佐奈江の兄妹が美希と初めて出会ったのは十二年前――良が小学六年、佐奈江が五歳で幼稚園に通っている頃だった。


 まだ両親も健在で、二人とも共働きだった為、ごく自然に佐奈江の面倒は良が見ていた。


 まだ幼いというのに、佐奈江は聞き分けがよくてわがままも言わず、近所の人達からは「とても良い子」といつも褒められていた。良はそれが何よりも自慢で、いつでも佐奈江を可愛がった。クラスメイトから「シスコン」などと言われるのは不本意だったが、それでも佐奈江の面倒を見るのは嬉しくて仕方なかった。


 ある休日の事、二人は家の近くの公園で砂遊びをしていた。両親も休みだったが、疲れている彼らにどこかに連れていってくれなどとは言えず、二人は小さな砂の城を作っていた。


 作り初めて少しした時、良はトイレに行きたくなった。砂場からトイレは目と鼻の先であり、すぐに帰ってこられる。心配する事はないだろうと思い、良は佐奈江に「兄ちゃん、トイレに行くからな」と短く言って、砂場から離れた。


 用を足して、砂場に戻ってくるまで数分もなかったと思う。すっきりした気分で歩を進めていた良だったが、目の前の光景に身体が一瞬固まった。

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