第34話

「はね、は、波根川、さ…悪くないんだよ!」


 充が良を見上げた。


「ぼ、僕、見たんだ、よ。お、お、女の子、が先に…道路に出、たんだよ!はねか、わさん、女の子、助け、たんだよ!僕、全部…見、たんだよ!だから、おまわりさ…に、お話、できたんだよ!」


 事故の目撃者とはこいつの事だったのか。そう思いながら、良はじっと充の目を見つめた。充も食い入るように、良の目を見つめだした。


 充の目はきらきらとしていて、とても輝いていた。幼い子供のように純粋で、ずる賢さが全く感じられないほど無垢で美しい。嘘をつくという事を全く知らない色の瞳だった。


 良は、このような瞳を持つ人間をもう一人知っていた。


「…お前の言いたい事は分かる」


 極めてゆっくりとした口調で、良は言った。


「でもな、気持ちが納得できねえんだよ。絶対に、どうしても…」

「な、な、何で、だよ?何でだよ…」

「説明すんには、お前には難しすぎんだよ」


 そう言うと良は背中を向けて、中庭から立ち去った。充だけがぽつんと取り残された。


「わ、分かるんだよ…」


 少ししてから、充が呟いた。


「ぼ、僕た、ちだって、分かるんだよ。分かる、んだよ…?」

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