第42話
「大丈夫だ、落ち着けよ」
そっと充の肩に手を置き、落ち着かせてやろうと試みるが、一番落ち着きを無くしているのが自分であるという事に良は気付いていた。充の肩を掴んでいる手が震えているし、その震えが腕を通して、全身を駆け巡ろうとしている。
良は落ち着きを失いつつ頭で、数時間前の事を必死に思い出していた。
自分は美希にひどい事を言った。事故の事も、佐奈江があんなふうになったのもお前のせいだと、ひどい言葉で罵った。
一気に言ってやったものだから、言葉の意味を深く捉えきれなかったとしても、「良ニイちゃんが自分に対して怒っている」という大まかな部分は分かっているはずだった。
佐奈江の事しか気が回らなかったとはいえ、どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。良は自分の浅はかさに怒りを覚えた。
「…仙崎君!」
その時、病室に一人の中年女性が飛び込んできた。それは十二年前、良と佐奈江、そして美希が初めて会った時、美希を迎えにきたあのエプロンの女性だった。
「細川さん…」
良は女性に近付いた。よほど急いできたのだろう、細川と呼ばれた女性は息切れが激しく、額に無数の汗の粒を貼り付けていた。細川が小さな声で言った。
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