第49話

真摯な佐奈江の意見に、学校やPTAは動いた。


 佐奈江のおかげで、美希は毎朝同じ通学路を彼女と一緒に歩く事ができた。いつも二人が手を繋いで歩く姿を見ているうちに、良にとって美希も「かけがえのない妹」になっていた。


 その美希が学校の帰りなのだろうか、じっと自分のアパートを見上げて声を出している。何度もここへ遊びに来たり、時には泊まったりする事もあるので、道くらいは覚えていただろうが、学校からここまで一人で来れたんだなと良が感心していると、美希は再び声を出した。


「…さぁな、ちゃ…あ~そ、ぼっ!」


 ああ。いつもと同じセリフだな、と良は思った。


 美希は佐奈江を迎えに来る際、必ず「さなちゃん、あそぼ!」と外から声をかける。それは佐奈江の姿が現れるまで続けられ、彼女が顔を見せるとやっと安心するのか、美希は満面の笑みを浮かべるのだ。


 しかし、今回は違った。美希が何度声をかけても、佐奈江はアパートから出てこない。だんだん、美希の顔に不安の色が出てきた。美希がパニックを起こすのを恐れた良は、小走りに彼女の元に駆け寄った。

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