第二章##BR##~亜利寿・フェヌリーナ・中野 19歳~(57~91P)

第57話

私の思い出の中にいる最後の母の姿は、病院の堅いベッドの上にあった。


 当時三歳だった私は、近所に住む同じ年頃の男の子達から、「髪と目の色が変だ」とからかわれ、ベッドで眠っている母に泣き付いては困らせた。


 物心ついた辺りから、私は私自身をコンプレックスとして抱え込んでいた。


 染めた訳でもないのに、絶えず茶色のままだった髪の毛。


 青みがかった瞳で鏡を見た時、認めなければならない英国人に似た自分の顔。


 他の誰よりも色素の薄い白い肌…。自分を築き上げている何もかもが、嫌で嫌でたまらなかった。


 あの日も私は男の子達にからかわれ、泣きながら母のいる病室のベッドに向かった。母はいつものように優しく私を抱き留め、背中をそっと撫でてくれた。


「ママ…」


 幼い私は引き付けを起こしそうになりながら聞いた。


「どうして亜利寿は皆と違うの?亜利寿だけ仲間外れ、皆と一緒が良かったよぉ…」


 無知であるゆえの、残酷な質問だったと思う。でも、自分の母がアメリカ人だという事。そして自分がハーフであるという事など知らない子供の私にとって、何故自分だけが皆と違い、からかわれなければならないのか理不尽でしょうがなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る