第7話

よほど力強く書いているのか、良が黒板にチョークを滑らしていく度に、カンカンと固い音が散らばるように響く。その黒板に映し出された大きな文字を、少女は言葉を詰まらせながら、一言ずつ読み出した。


「…き、き、きたる…け、けん、けんが、けん…?りょ、良ニイ、ちゃん…私、よ、読めま、せん…」

「あっ、ごめんな美希?」


 漢字を多く使ったせいで読めなかったかと、良は少し反省しながら少女の頭を優しく撫でてやる。黒板には『明日来たる、我が一年五組に見学生!』と書いていた。


「…見学生?」


 黒板を見た道孝が、また呆れた声を出した。


「それだけの事で、あんな大声出してたのかよ。お前は?」

「…何だよ、文句あんのか?」

「美希に分かりやすく説明しろって言ってんだ。変にビビらせて、またパニクったらどうすんだよ…」

「そうですよ、良君」


 亜利寿も相槌を打つ。


「そうじゃ、そうじゃ。ここにはデリケートな女の子が三人もおるんじゃ。もう少し気を遣わんかい」


 カナエもそう言って良を睨んだが、美希だけがケラケラと無邪気に笑うだけで、良も道孝も亜利寿もその言葉に反応できなかった。

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