2-5
夢、夢を見ているのだとフレックはすぐに分かった。
だって目の前に成長したヘリオスフィアが居るのだ。
さっきまで小さかったひとが、もう大人みたいに成長しているから、だからこれは夢なんだって。
分かって大好きな人を見つめる。
学園の制服を着ている、とても素敵な、大好きなひと。
温度を感じさせない表情を浮かべているから、ああ、この時が来たんだなって、夢の中のフレックが思った。
夢の中でもフレックはフレックで、だけど夢の中のフレックとフレックは違うから、夢の中のフレックの記憶と想いが、フレックにたくさんたくさん流れ込んでくる。
フレックの婚約者は本当に本当に魅力的なひとだった。
特異体質の所為で自分なんかと婚約して身の安全を確保しなければならならない、可哀想なひと。
このひとが自分を好きでは無いのは随分と前から知っていた。
このひとの一族が自分との婚約を不服と思っているのも、知っている。
自分の家族以外全部みんなが、何故、フレック・トリノという無能とヘリオスフィア・ニューノが結婚しなければならないのかと思っているのも、知っている。
誰も彼もが何で何で何で。
お前なんかと。
お前がと。
視線を寄越す、時には言葉を投げつける。
フレックはもう何度も何度も心が折れかけた。
嫌味なんて日常茶飯事。
やり返せない嫌がらせは年々増えてく。
陰口を傍で言われ、魔法を無効にする体質だからと直接攻撃魔法を放たれる。
それでも、フレックは、婚約者で居続けた。
ヘリオスフィアの腕にしがみつき続けた。
だって、そうしないと、ヘリオスフィアが死んでしまうから。
フレックにだけは分かっていた。
ヘリオスフィアの特異体質が異常であることを。
魔力暴走という名前で片づけられない程、魔力を体内で生成してしまっていることを。
それを消費するには魔法を発動しなければならない。
けれど発動させたところで、彼の生成する魔力は氷属性一択。
そんな魔力で出来るのは、凍てつかせ吹雪かせ温度を奪う氷の世界を創るだけ。
ヘリオスフィアは魔力発芽の時に邸を凍らせ実母を凍死させかけたトラウマを持っている。
魔力制御、ヘリオスフィアはその天才でもあった。
でもそれを、上回る魔力暴走が、起きない保証は何処にも無い。
今は制御出来ている。
でも、もしも魔力暴走が制御不能に陥ってしまったら誰かを今度こそ殺してしまう、ヘリオスフィアの心が壊れてしまう、死んでしまう。
だから、フレックは、ヘリオスフィアにへばり続けた。
彼が凍えないように、自分の出来る唯一を付与し続けた。
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