10-9

でもそれこそ母に本日バレるのでは?と心配になったフレックの頭を、実姉がよしよし撫で始める。

それは大丈夫心配無しって意味っだと分かったフレックは、


「…姉上達さぁ、なんで俺とリオが婚約破棄してないって教えてくれなかったの?」


今までの家族のあやふやな態度についてぼやいてしまった。


「…アンタが東部魔境戦線行き決まっても、ロッカ卿は婚約破棄絶対しないの一点張り。ニューノ家本家では白紙って話になったけど、トリノ家からその話触れるのはタブーになった。それは分かる?」


「…わかるぅ…うちとニューノ家じゃ格が…そっか…そうだよね…」


いやあお話はニューノ家にお任せしておりまして、と答え続ける家族の様子簡単に想像出来た。


「で、ふたりで話進めてるだろうから放っておこーってなってんの。なってたんだけど、破棄、されてると、思ってたの?」


「うん…」


実姉は溜息を吐いた。

フレックの脳内でそんなややこしいことになってただなんて、トリノ家びっくりである。


「こっち戻ってもくそ溺愛されてんのに…何で破棄されてるって思ったよ」


「ぅう…それは、説明不足とぉ、大事な書類が燃えたからでぇ、それに、俺は、ちょっと色々あって婚約破棄して欲しくてあれしてたからぁ」


フレックは自分の非が大分高い事に気付いて口籠る。


「ああ、あの奇行」


「奇行扱い!」


実姉にさらっと酷いことを言われたフレックは、そりゃ奇行だったかもだけど、とちょっとしょげた。

でも文官として実績積めたしって、すぐに良い方向に考えられてドヤ顔す。

突き抜けて楽観的な思考の弟に、それが大好きな実姉は優しく昔より背が高くなったフレックの頭を撫でる。


「あのね、フレック。ロッカ卿はアンタが1年経っても還って来ないもんだから、東部魔境戦線へ配属を希望したのよ?」


「え」


「勿論却下されたけど」


そんな話ははじめて聞いた。

目をパチクリさせるフレックに、実姉は母親のように言い聞かせる。

本当に手の掛かる、可愛い弟だ。

素直に幸せになれってんだ、と黒真珠の双眸で末弟を見つめる。


「その気持ちに応えなさい」


「ん」


素直に頷くフレックをよしよし撫でながら、


「あと、アンタ、もうよけーなこと考えのやめな?あんたはどう転んでも楽観的なんだし、そこが良いとこだし、ロッカ卿もそー思ってるから」


「俺楽観的じゃないよ?きちんと、ちゃんと、思考実験してます」


「うーん、自覚しろ」


どうやって分からせたろかと、真黒な髪ぐちゃぐちゃにする。

どうしてこんなに可愛いのかと、薄っすら涙も滲んでくる。

もういいから、絶対、幸せになんなさいよって、乱暴にぐしぐし。


なんか暴力さ増した姉の撫でに翻弄されながら、フレックはお腹空いたなって。

執事に食堂に呼ばれるまで、姉のぐちゃぐちゃ攻撃に身を任せた。

だってフレックは、確実に愚かな自分を弟として可愛がってくれる姉の事が大好きだから。

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