10-10

あの後兄と義理兄と義理姉と両親に、実姉にぐちゃぐちゃにされている所を目撃されたフレックは、末弟愛でる会を開かれてしまって、お食事です!って女中頭に怒られるまで髪と背中と手と足と顔を撫でくり回された。

それは近い内にヘリオスフィアの元へ行ってしまう、頑張って来たフレックを愛でれる時に愛でておこうということだったが、フレックには伝わらず「いたいぃなんでぇいやぁちぢうぇのヒゲいてぇえよぉぉ」むしろ苦痛を味合わせていたのだった。






父の髭じょりじょを夢に見たフレックは、玄関ホールに爽やかに現れたヘリオスフィアの御姿に頭の中全部占領され、吸い込まれるようにその腕の中に飛び込んでいた。

ヘリオスフィアは一歩たりともフレックを歩かせず、胸で抱き止め身体を支える。


「おはよう、フレック」


そうして微笑みながらおでこにキスをする。

フレックはヘリオスフィアに抱き付き頬をすりすり胸板に擦り付けた。

シンプルな装いのお陰で痛くない。


「おはよ、りお」


見上げると空色の瞳が優しく見つめてくれていたから、フレックは昨日同様、自分全てをヘリオスフィアに委ねた。


軽々抱き上げられ馬車に乗せられ足の間に座らせられ、フレックは贅沢な背もたれにむふーと凭れ掛かった。

お腹にヘリオスフィアの両腕絡みつき、何があっても安心安全だ。


「リオはさ」


窓から朝の日差しが差し込む。

白銀の髪が輝き煌めき、きれーだなぁってフレックは目を細める。


「全然、変わってなかったんだよな」


フレックは思い返す。

東部魔境戦線から帰って来て再会した日から。

それ以前から。

ずっと。

ヘリオスフィアはずっと。

何も変わってなかった。

最初少し冷たかったのは、フレックをすぐに東部から呼び戻せなかった己へ怒り、それが原因で嫌われてないだろうかという恐れ、フレックがよそよそしい戸惑い、からきていた。

でもすぐにフレックの文官としての態度が、昔よく見たなんだかわからない努力と同じで、そのすぐ後ろに本当のフレックが居るのが分かった。

ヘリオスフィアが愛してやまない可愛い、フレックが見え隠れ。

ヘリオスフィアは以前と変わらぬフレックが、早く還って来るのを願いながら、変わらなかった。

元々変わるつもりもなかった。

それに対してフレックはひとり、空回り。

自分だけで空回り、していた。


フレックはヘリオスフィアの手の甲を撫でる。

大きくなっていた。

でも重ねた自分の手も、大きくなっていた。


「私は、ずっと私のままだ」


それがなんなんだ?というような反応に、いやぁ本当に何してたんだろ、ってフレックは笑った。


「あの日さぁ、白紙の日、ちょっと怒ってたじゃん?」


「ああ…そうだな」


「あれって、俺が態度を改めなかったから?」


「いや、君の処遇が東部魔境戦線であることに不服でしかなっただけだ」


ぎゅうって抱き締められ、頭にヘリオスフィアの顎が乗ったのをフレックは感じた。


「え?」


「フレックは、私の傍で、私が鍛え直す。そう何度も訴えたのだが、私の傍ではフレックは変わらない等と言われてな」


「…えぇ?」


流石に、流石にあの日は怒ってたんだろう、と思ったのに。

まさか自分にじゃなく、周囲にだった、とは。

フレックは、ますますをもって愛情深いヘリオスフィアが大好きになってしまった。

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