10-8
そんなこんなしていたら、辺りは薄暗く、いつもより遅めの帰宅になってしまった。
でもどちらも馬車を急かすことはしなかった。
寄り添って、将来のことをたくさん話していたかったからだ。
だからフレックは玄関ホールで別れるのがほんっとうに辛かった。
離れたくなさすぎて、今直ぐ結婚してぇえ!一緒に暮らしたいぃいと、腕に縋ってわがままを言ってしまった。
ヘリオスフィアも同じ気持ちだったけど、でも分別がつく青年だから「我慢してフレック。また明日、迎えに来るから、ね?」キスして慰め抱き締める。
わかってる。
分かってるけど、フレックは素直に離れられない好きだから。
「おいこら愚弟」
そんなフレックの首根っこを掴み、ヘリオスフィアから引き剥がす者あり。
慣れた力加減にフレックは「あぎゅうぇぇ」その者の名を呼びながら離れ離れになったヘリオスフィアへ両手をパタパタ伸ばす。
ヘリオスフィアは懐かしい光景に微笑み、フレックの実姉に一礼した。
「義姉上様お騒がせして申し訳ございません」
「ううん、うちのかわいー愚弟がごめん。フレック笑顔でバイバイしな」
一歩下って自分達を微笑ましく見つめる姿に、りおりお言って暴れている弟の様子に、フレックの実姉は苦笑した。
幼い頃、フレックはヘリオスフィアと離れたくなくてこうやってよくわがままを言った。
ヘリオスフィアは一泊ならと折れることが、多すぎた。
だから実姉が引き剥がす役をかって出た。
名目上はヘリオスフィアに迷惑をかけない為に。
本音は、フレックが家を出るのはまだ早い!
今は懐かしい、相も変わらずで良かった、フレック五月蝿い。
でもまだ還って来たばかりの末弟だ、家族に甘えて欲しいから、フレックの右手を取ってぶんぶん振らせる。
「ううう、これやられんのひさしぶりぃぃりおばいばいいぃ」
基本的にトリノ家の女性には大人しく従うべし、という隠れ家訓によって、フレックは実姉の引き剥がしに従い、別れを惜しみ我慢した。
「ふふ、ばいばいフレック。お邪魔致しました」
仲良しきょうだいへ再び一礼をしてから、ヘリオスフィアはトリノ家を後にする。
「またねぇロッカ卿ー」
その背に実姉もフレックと同様手をふりふり、扉が閉まった所でフレックを解放した。
フレックは若干恨みがましい眼差しを姉に向けてしまう。
「あねうえひどぃ」
そう言われてもと実姉は肩をすくめた。
「てか、お前らヤったろ」
帰宅が遅い、その上あの距離感。
女と姉の勘が見事に的中する。
「ぐう、やっぱり姉上にはバレるか」
「バレバレだっつーの」
「…だめだったかな」
「別にいーんじゃん?ロッカ卿お前一筋だし…母様はもうヤってると思ってたし」
「…まじか」
「まじよー」
と、呆れた様子で姉が笑ってくれるから、フレックは批難されなくって良かったって思った。
いや母の認識は聞かなかったことにしよう。
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