10-7

唇でヘリオスフィアの肌に触れながら、フレックがぽつり、こぼす。


「じゃ、さ」


その口調は完全に12歳の頃に戻っていた。


「うん」


でも、そこから失われた時間を取り戻したいのはヘリオスフィアも同じだったから、ロッカ卿も12歳の頃に戻ってた。

だけど身体はすっかり大人だから、先ほど激しくキスして交わってしまった。


「こんぜんこうしょう、おこられない?」


そのことを不安に思ったフレックに、ヘリオスフィアは何も心配ないよって口付ける。


「誰にも文句なぞ、言わせない」


緩やかに大人の顔に戻ったヘリオスフィアの頼もしさに、フレックは目を輝かせ問い続ける。


「じゃあ、さ」


「うん」


「おれたち、けっこん、する?」


子供が口約束を確認するような口調だった。


「ああ、する。結婚しよう」


それは揺るがぬ決定項だとヘリオスフィアが力強く肯定するから、フレックはへらり笑った。

その様子からヘリオスフィアは、フレックが二度と結婚に関して思い悩むことはないだろうと安堵した。

何せもう、今の彼はフレックは、ヘリオスフィアが愛してやまない楽観的なフレックなのだから。


「りぉ」


「うん」


「あたらしい、ゆびわ、ほしぃ」


もちろん今のも大事だけど、今は上半身裸になる時怪我したらいけないからってヘリオスフィアに回収されているけれども。

婚約指輪、結婚指輪、是が非でも欲しかった。


「婚約指輪は今、新しいのを用意しているから安心してくれ。結婚指輪は、一緒に選ぼう?」


「りぉお」


「うん」


「大好き」


「うん」


拙い幼い世の中に悪は無い。

そういう楽観的な子の愛の告白だった。

けれどヘリオスフィアは幸福に満たされる。

待ち望んでいたんだ。

この子の帰還を。


「俺が絶対幸せにするから」


剣を持つようになって巌さが足されたヘリオスフィアの綺麗な手を、フレックは握った。

温かかった。

でも、温めるように両手で包み込む。

全部包めない、だけどヘリオスフィアがありがとうって、お礼変わりにキスしてくた。


「あの日、君が手を温めてくれた時から。あの時から、君が傍に居てくれるだけで。私は、それだけで、幸せなんだ」


キスの合間にそう告げられたフレックは瞠目した。

初めて会ったあの時から、だなんて。

先に好きになったのは自分だとばかり思っていたフレックに、ヘリオスフィアは嬉し気に目を細めた。


「もしも私達の幸せを邪魔する者が居て、五月蠅く周囲を飛び交ったら魔境戦線へ行こう?」


穏やかな口調でたいそう物騒な事を言うヘリオスフィアに、


「それ、いーね!」


フレックは全肯定で元気に飛びついた。

なにその提案最高なんですけどとはしゃぐフレックを、ヘリオスフィアはいつまでも愛おし気に見つめ続けるのだった。

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