9-6

「リオ!」


強く瞬いた眦から散った涙が六花となる。

キラキラとあの日のように輝いて。

ふわふわと、飛んでいく。

それを見つけて喜ぶ子供はもう居ない。


小さな演習場にフレックの叫びは響き渡った。

人影は幾つか存在し蹲りまるで平伏する下々、震えすら凍ってる。


だってそこに、王が居た。


冰雪の中心に、彼は居た。


凍の、王。


白銀の髪鏡面させて。

空色の双眸冷酷に。

右手に氷の剣を。

冷血に睥睨。


対峙する者を見下ろしていた。


そんな凍の王の名前をフレックは平然と叫んだ。


当然と、王が、見る。


冷え切ったな空色が。


とらえる。


フレックを。


「フレック!?」


凍の王、ヘリオスフィアの冷え切っていた相貌が一瞬で温度を持つ。

眉間に皺を寄せ、すぐさま駆け寄り両手でフレックを抱き上げる。

抱き上げられたフレックは無遠慮にヘリオスフィアに抱き付いた。

だってこんなに冷えている。

こんなにこんなに、冷えている。

許されない。

こんなの、許さない。

込み上がってきた怒りに、フレックは身を任せてしまう。


「リオのバカ!こんなに冷えて!ダメじゃん!バカ!」


「あ…ああ…すまないフレック…でも、前にも言った筈だ。杖を持たずに出歩いてはいけないと」


「リオがいないのが悪い!!」


「…あぁ、そうだ。私がすべて悪い…ごめん」


「杖だってリオが持ってった!!俺のこと置いてったリオが悪い!!」


「そうだったね…許してくれフレック。1人にして…ごめん…」


フレックはバっとヘリオスフィアの顔を見た。

すまなさそうな顔していた。

ちょっと涙目だった。

反省、している。

でも駄目まだ許さない。

フレックはお姫様抱っこされたまま、ヘリオスフィアへ文句を言い続けた。


「ゆったくせに守るってゆったくせに!」


「あ…ああ…ごめん…フレック…」


「ひとり、にしないでよ、心配させないでよ、こんなこと、しちゃだめだよ」


フレックは思いの丈をぶちまけ、再びヘリオスフィアに抱き付いた。

肩口に顔を埋める。

涙を見せたくなかったからだ。

余計に心配させてしまうから。

優しいヘリオスフィアを、守りたいから。

出来ることするから。

彼方の悲しい魔力暴走、いつまでもいつまでも。


「俺が、リオ、まもるから…もう、やだ…」


誰かを傷付けて、傷付くのだけは、もう。


「こんなことしないでくれ…リオは優しいから…こわれちゃうよ…」


見たくないみたくない。

苦しまないでくるしませたくない。

それが出来るのは自分だけ。

だから。

ああ、だから。


この人の傍に居たのかフレック。

この人の傍に居たいのかフレック。

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