9-7
フレックはもう、何がどうなっても、結果が自分にとって不幸でも。
ヘリオスフィアの傍に居ようと。
心に決めた。
嫌われても拒絶されても。
もう駄目だ。
こんな寒々しい世界の中心で、あんな顔を、二度とさせたくない。
そんな思いを込めるよに、ヘリオスフィアを抱き締める。
「フレック…ああ…もう、もう何処へもやらない…ずっと、傍に…」
しがみつくフレックの温もりに、ヘリオスフィアの凍が溶けていく。
ヘリオスフィアは宝物抱き締めるように、フレックを抱え込んだ。
その瞳から一条の涙零れ、でも、もう、六花にはならなかった。
魔力が、凍れる魔力が無効化されていくのを、白んだ世界に太陽の差し戻って感じる。
震えを忘れ、陽の光の暖かさ気付かず、周囲の者たちは、その光景に惚けていた。
凍の世界だった。
何も出来ぬ、いや傅くことしか出来ぬ世界だった。
恐怖すら凍った。
死を感じた。
そこに片足を引き摺った、頼りない背格好の青年が飛び込んで来た。
なにもおそれぬその姿に。
青年がヘリオスフィアに抱き上げられる姿に。
ヘリオスフィアに対して遠慮の無い姿に。
しかももたらした。
もたらした、陽だまりのような。
そう、これはまさしく陽だまりだ。
悍ましき零度の世界を、ありふれた唯一無二の陽だまりにかえてしまった青年に。
その青年を愛おし気に抱くヘリオスフィアに。
誰も彼もが、言葉を失っていた。
手足を凍結させられ無様に倒れ込んでいたハリオ・カミオカンデ第一王子もまた、同様に。
その光景に目を奪われ続けた。
優しい抱擁と暖かい体温とお姫様抱っこの安心感。
ついでに右足引き摺ってのフレックにとっては全力疾走。
ヘリオスフィアが無事という安心から来る緩和の所為で、フレックは急にぐったりしてしまう。
「フレック?」
「…つかれた…」
「それは、そうだろう。休憩しないといけない…その前に少し待ってくれるかい?」
「うん…いいよぉ…」
ヘリオスフィアに背中を撫でられ、フレックはこのまま仮眠とっちゃおっかな、なんて思った。
「プルトゥ卿、動けるか?」
聞き覚えのある名にフレックは周囲を見渡した。
そしたらヘリオスフィアの背後にプルトゥ卿がしゃがみ込んでいた。
緩やかに動き出したその人と目が合って、どもって挨拶。
そのままゆっくり立ち上がったプルトゥ卿の顔色は少し悪かった。
「寒かった」
「すまん」
「ガチでこれからはトリノ殿とセット行動な?もうこれ規律に入れよう」
「ああ、実にありがたい」
軽口の応酬で調子を取り戻した制服姿のプルトゥ卿、まだ蹲ってる同級生に声を掛け「こっち問題無し…色々と」「そうか」何かを確認しあうその様に、フレックは超えられぬ信用信頼関係にまた嫉妬してしまった。
だからぎゅってする。
ヘリオスフィアが「もう少しだけ、我慢して、フレック」飛び切り優しく囁いてくれたから我慢する。
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