9-8

フレックに優しい視線を向けた後、ヘリオスフィアは冷ややかな空色を這いつくばる者へ向ける。


「ハリオ・カミオカンデ第一王子。まだやるか?」


「っ」


フレックは、え、ハリオ・カミオカンデ第一王子?と、振り返る。

確かにそこに、敗者が如く地に倒れ込んだハリオ・カミオカンデ第一王子が居た。

身体のあちこちに傷を負い、意識はありながらも未だ立ち上がれない様子から、誰かに一方的にやられたのだ、ということがフレックですら理解出来た。

また彼の背後に従者と補佐候補も倒れており、そちらは意識が完全に失われているようだった。


「…なんでこんなことに…?」


なってんのって、フレックはヘリオスフィアを見た。

ヘリオスフィアは蕩けるような甘い眼差しでもってフレックを見つめ返し、


「君を愚弄され許せずに」


「や、やりすぎでは…?」


「決闘を申し込んだのはハリオ・カミオカンデ第一王子だ」


「ああ…」


フレックはちょっとくらくらした。

どうして誰も彼もが気軽にヘリオスフィアに喧嘩を売るのだろうか。

ヘリオスフィアは真面目なのだから、決闘と言われれば騎士として諾して、そのルールに則って戦うに決まっている。

あんなに魔力を暴走させ、世界を凍えさせたのだ。

さぞ転がし回されたに違いない。

相手が誰であれ、手加減なんてするはずない。

それが分からなかったのだろうか、ハリオ・カミオカンデ第一王子は。

はとこ、なのに。

よく見れば少し似ているハリオ第一王子が、心までは屈してないとヘリオスフィアを睨み付ける。

怪我した猫みたいで、フレックは哀れんでしまった。


まだ無駄な闘志を燃やす第一王子に対して、ヘリオスフィアは一貫して冷たかった。


「さて、まだやるというのなら、氷の彫像にするが如何か」


温度がほとんどない対応に、それでも第一王子は吼え返す。


「貴様っ…!わたしを!誰だと思っているんだ!」


「私に決闘を挑んだ者」


「わたしはカミオカンデ第一王子だぞ!!」


「私はカミオカンデ王国に仕える魔法騎士。騎士は決闘を挑まれたなら、相手が負けを認めるまで戦うものだと、団長より享受されている。それが相手が何であろうとも」


「調子に乗るな!!騎士風情がっ!!!」


そのなんとも傲慢な態度に、ヘリオスフィアは呆れた様子で呟いた。


「…残念だ」


「おい!わたしに早く治癒魔法をかけろ!!」


「自分でやれ、愚か者」


「っくう!わたしを愚弄するなと!!何度言えば分かるのだ!!」


「愚弄?それは賢き人間が感ずるものであり、貴公にはその賢さが無い。王族の血族だからといって赦される限度があることを、いい加減学べ」


「なっなっ!!!」


ヘリオスフィアにけちょんけちょんに言い負かされ、顔を真っ赤にしている青年。

水色の瞳を剥き出し、何か言おうとして、今だ倒れ込んだままで無様だ。

でも彼はカミオカンデ王国第一王子。

フレックは、意識外で眉根を寄せてしまってた。

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