9-9
フレックは別に王国に対して忠誠心が強い方ではなかった。
ただ穏やかな平定を保ってくれてる王国が好きだった。
だからおのずと王族は善い人間ばかりなんだと思ってた。
なにせ王族に連なるニューノ家が、善い人達ばっかりだったから。
でも今目の前に居る、横柄で横暴な人が、王族?
しかも第一王子だって?
これがもしや次の国王?
やばいんでは?
まずんいんでは?
フレックはついついヘリオスフィアに縋ってしまう。
「大丈夫だフレック、あそこがあるじゃないか」
そう耳に口付けするように囁かれ、フレックはびっくりした。
それからすぐに合点がついて「…だいじょうぶなのか…?」ものすごく心配になった。
「最後は私に託されていた」
「何、なにを言ってるんだヘリオスフィア!」
「…私もお前の身内のひとり、だからな。支えようと思った」
「ぅ」
「だが、もう、無理だ」
そうしてヘリオスフィアは静かに告げた。
「東部魔境戦線に行け、ハリオ」
貴族社会の常套手段。
問題児は東部魔境戦線へ。
なるほど、王族は決めていたのか。
そして今もっとも身近に居る親族にその決定権を持たせたのか。
甘やかさない、厳しいはとこに。
そう決まったのならもはや誰も文句は言うまい。
強制的な再教育が、自然と成される事を願っているという事なのだろう。
最後の情、一念の愛。
フレックは知っている。
けど、あそこでの生活を知っているからこそ、横暴な子がすぐいなくなっちゃったのを何度も見てるからこそ、心配だった。
そうはならぬ配慮されるよね?
そうはならぬ警護はつくよ。
視線で語り合って、フレックはヘリオスフィアと王族がそう判断したんだからと、もう心配するのは止めにした。
住めば都な魔境だし、と。
「そ、そんな!馬鹿な!話が!!」
言われた本人は先ほどとは別方向で顔面蒼白になってしまった。
そんなこと言われるなんて、思ってもなかったのだろう。
東部魔境戦線をよく知らない、争い知らずの中央箱入り令息からすれば、魔境は獣の巣窟地獄という認識なのだ。
でも戦って死んだら名誉っていう共通認識もある。
だからそんな所に行けと言うのは、実質死ね名誉をもたらせ!と言われているようなもの。
ハリオは酷く狼狽し、震え、泣き出し、這って逃げ出そうと地面を張って藻掻く。
「…何をしてきたのか、分からないというのなら、ハリオ、お前はそれこそ大馬鹿者だ…東部魔境戦線で、生きてこい」
「ぅぅう、やだぁああ!」
でも満身創痍な高貴なる者、ちっとも動けず喚き出す。
「プルトゥ卿、任せたぞ」
「了解…さ、行きますよ…」
「やだぁあ!やだああ!」
そうしてハリオ・カミオカンデ第一王子は、プルトゥ卿とその同級生達によって連行されていった。
こうなることを知っていたような、何処か怒りすら滲ませながらハリオ・カミオカンデ第一王子を連れて行くプルトゥ卿を疑問に思いながら、フレックは誰かが報せたのか、やってきた憲兵と話をするヘリオスフィアを見つめる。
「ああ…もう少し…我慢してくれるかい、フレック?」
舌の付け根まで甘く感じる視線と声色に、フレックだけでなく憲兵達も蕩けてしまい、後日ロッカ卿の色気が爆上がりしたと噂が広まることとなった。
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