7-7

「フレック…こんなところに居ては凍えてしまう」


さきほどまで氷結の世界を創り上げていた者とは思えぬ程、ヘリオスフィアが優しくフレックに告げる。

そんなヘリオスフィアに、フレックはなんてことないさといった様子で笑う。

フレックの特異体質により呼び戻された太陽の光浴びたそれは、ヘリオスフィアには眩しかった。


「卿の凍てつきは魔獣にさえ堪えます」


空色の瞳から、剣を握り締めながら倒れるブレイブを一瞥、そしてまた瞳へ視線を戻し、


「戦線知らぬ御方には…それこそ酷な冷えかと愚考致します」


だから、もう止めてやれよって手を取った。

想像以上に冷たかったので、フレックは暖めるよに両手で包む。


ヘリオスフィアは瞠目、してから嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ、それもそうだな。…帰ろう、フレック」


「そうしましょうロッカ卿」


ヘリオスフィアはブレイブを一瞥、してから恭しくフレックをいつも通り支えながら円台を後にした。

フレックは騎士団員がヘリオスフィアへの態度を変えてしまわないか、それが不安だった。

けれど見守っていた者達からは、憧れ敬愛感心の視線ばかりだったので、フレックは安堵した。


「後の始末任せたぞ、プルトゥ卿」


そもそも帰宅予定だったヘリオスフィアは、フレックを送らなければならない為、そんな事をロランへ冷たく告げた。

けれどロランは勿論だともと言った様子で「お任せください、ロッカ卿」ヘリオスフィアの肩を軽く叩く。

フレックは信頼しきったそのやり取りに、ややモヤしたがロランへ小さく会釈し誤魔化した。

そんなフレックへロランは深々一礼した。

騎士団全体の魔力暴走を簡単に四散させてくれた感謝の気持ちを込めて。


「さ、てと、ほいほいお前らぼさっとすんなー!ブレイブ卿生きてるかー?結界柱壊れてないか確認!上官への報告!こらジェゴ卿!お前こっちこい当事者なんだから報告書必要なんだから!」


そうしてロランはテキパキ指示を出し始めた。

若干、ジェゴ卿の様子に嫌な予感を覚えつつ…。




待機している馬車へ向かう道中、ふいに六華がフレックの鼻先を飛んだ。

久しぶりに見たな、と口角を上げたフレックに「今度雪でもみせようか」ヘリオスフィアが穏やかにそんなことを言うものだから。


「わ、見たい」


「それじゃあ、今度、必ず」


近しい仲の距離肩と腕触れ手を強く握りしめられる。

それは近すぎるから、駄目だと言うべき。

でもフレックは、今は咎めちゃいけないって受け入れる。

戦えと、望まれたとは言えヘリオスフィアは己の魔力暴走を好んでいないのだ。

意図的に引き起こし、魔道具で抑え込むまたは精神力で制御する、そんなこと出来るが出来ただろうが、根本、嫌っているのだ。

だから精神的に参ってる。

その証拠に、温もりを求めるように触れてくる。

冷えが、取れない。

こんな状態のヘリオスフィアを、フレックは突き放せない。

だってフレックは徹頭徹尾一貫してるんだ。

ヘリオスフィアを幸せにする。

幸せに凍えなんて御法度だ。

だから背中を撫でる。

いつもはしない。

今はする。

だって必要。

まだ冷えてる。


馬車に乗っても懸命に、フレックはヘリオスフィアの身体にあちこち触れた。


「フレックはマッサージの才能もあるんだな」


頬に赤味が増し手も温かくなったヘリオスフィアにそう褒められ、フレックはほっとした。


「…もう少し、続けて…?」


なのにもっと、と要求されてしまったフレックは、邸に馬車が到着するまで、ヘリオスフィアをまさぐり続けると言うある意味ご褒美を貰ってしまったのだった。

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