3-1
体に大きなダメージを抱え帰還したフレックを、家族は戸惑いつつも受け入れてくれた。
フレックの活躍は家族へ報告されており、彼らは実績を積んで帰還して文官として何処かに採用されて、と色々と希望を抱いたそうだ。
ところが帰還したフレックは左目を失っていた。
右足も悪くしていた。
そんな報告は無かったと責める家族にフレックは、
「東部じゃこんなの軽傷だから」
と、東部の常識で答えた。
その答えに父は頭を抱え、母は顔を青ざめ、姉は呆れ、兄は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「兄上、何か言いたげですね」
「ああ…実はな…俺は今、学園の教諭をしているんだが」
フレックと違いとても優秀な兄は、王立学園で教鞭を取っていた。
トリノ家の跡継ぎは姉が捕まえた優秀な婿殿が居るので、兄は自由に外で働いていた。
こちらもすでに妻帯しており、本当に、なんでこんな末っ子生まれた育った状態だったが、家族仲は昔から良かった。
だからか、姉の夫も、兄も妻も、フレックに優しかった。
今も、これからする兄の話の内容を知っているのか、気遣しげにフレックを見つめている。
フレックはなんだか嫌な予感がした。
「今、学園にはな…聖女、様?が居るんだが…彼女がちょっと、問題でな?」
兄は家族に、使用人に確認するように話を続ける。
どうやらここだけの話、ということらしい。
家族はもちろん、居るのは古くから仕える口の堅い者だけだったので、兄は再び溜息を。
吐いてから爆弾を投下した。
「その聖女、様、ってのが自称でな?でも同級生のご令息の間では聖女様って信じててな?そのご令息たちが彼女にご執心でな?あーうーん…プチ逆ハーレム状態」
聖女とは国と教会が認めた、癒しの魔法に長けた女性のことを指す。
聖女として覚醒すると、あらゆる病気と疵を癒し、厄災を打ち滅ぼす魔法が使えるとされている。
100年に一度現れるかどうかの、希少な存在。
故に聖女とは国王と同じく敬うべし。
と、いうのが一派的な常識だ。
「聖女って自称したら大罪、ですよね?」
聖女として覚醒するかもしれない女性は希に発見され、聖女見習という扱いになる。
しかし未覚醒、または見習でもない女性が聖女だと自称することは国内及び周辺諸国を混乱へ導く為、カミオカンデ王国では即刻処刑と定められている。
フレックがそう指摘すると、兄は苦みに悲しみを足した表情を浮かべた。
「第一王子が、さ」
その言葉にフレックは絶句した。
「それと第二王子と、現騎士団長と、宰相と、その他諸々の国の重鎮と上位貴族のご令息、留学生、が、」
確かにフレックに歳が近い者には国の中心人物の令息が多かった。
彼らは貴族であるから当然、王立学園に通うだろう。
そんな彼等がそんな事態に陥っているなんて、誰が想像出来ただろうか。
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