2-10
フレックは飛び起きた。
官舎に魔物が突っ込んで来た衝撃に似ていたからだ。
肝が冷えて色々あったアレコレ思い出したが、ここは馬車の中。
どうやら車輪が石を踏んで揺れただけのようだ。
懐かしい夢を見ていたなぁと、首から掛けているチェーンの先、揃いの指輪を服の上から確かめる。
もうなんの意味も無い指輪だったけど、ヘリオスフィアが選んでくれた物だったから、フレックの宝物だ。
東部魔境戦線へ文官として派遣されたフレックは、生きて帰ることは出来ぬだろうと、そう思っていた。
だから自分が死んだらこの指輪だけは家族の元に送り届けて欲しいと上司に告げていた。
家族のことだから、それを届けられてもニューノ公爵家にフレックの想いを告げることはしないだろう。
ただ、家族に、真実を知って欲しいと思って、そう決めていた。
ところがフレック16歳の春。
東部魔境戦線に突如平和が訪れた。
一介の兵士であった青年が魔境の頂点に君臨する魔物と戦い勝利し、最終的に結婚することになったのだ。
そして、魔境の頂点に君臨した青年とカミオカンデ王国との間に平和協定が結ばれ、長きに渡る争いが終結を迎えたのである。
青年はワースワース領に生まれた平民の子で、唐竹を割ったような性格で、フレックと歳が近かった為よく話す仲だった。
そんな彼に、好きな人が居て求婚したいという相談を受けたフレックは求婚時に結婚指輪を渡しては?と提案した。
なにせフレックの宝物。
一生涯、指輪を心の支えにして魔境で生きて行く所存、だったから、どのように特別なのか説明を容易かった。
その説明に納得した青年の為に、フレックは指輪の用意の手伝いをした。
そして求婚へのアドバイスもした。
ついでに結婚式の準備もした。
そうして、青年と魔境の頂点に君臨する魔物の結婚は成功した。
そう、青年と東部魔境の頂点に君臨する少女の姿をした魔物の結婚が、平和協定に繋がったのだ。
故にフレックは、戦争終結の立役者となったのだ。
その為、事後処理などがあるにも関わらず、フレックには中央への帰還命令が下されたのだった。
景色がフレックの知っている街並みに変わっていた。
懐かしい我が家への帰路。
もう直ぐ到着することを御者が教えてくれた。
ほどなくして馬車が停車する。
窓から邸の前で家族が待っているのが見えた。
フレックは開けて貰った扉から、滑るように馬車から降りた。
手には杖を。
それを支えに歩き出す。
母が卒倒したのか、隣に居た父が支えた。
兄と姉が弾かれたように走って来る。
長く仕えている者たちの表情が暗い。
だからフレックは久しぶりに再会した人々へ、
「いやあ、こんなに早く終結するなんて、予定外でしたよぉ」
いつも通りに振舞った。
フレック16歳の春。
左目を失い、右足を不自由にして、フレックは中央へ、帰還してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。