4-1

元婚約者を雇わねばならぬほどの人材不足。

一体学園に何が起きているのか。

フレックは不安だった。

不安で眠れない、なんていうあれはないので、ヘリオスフィアに言われた通り、フレックはしっかり晩ご飯を食べばっちり眠った。

久し振りの魔物の強襲無しの寝所で朝まで夢も見ないで寝たフレックは、朝食も元気にもっぐもっぐ食べいた。


「ふつーのご飯なのに、そんなに美味しい?」


向かいに座っていた姉がどこか呆れた様子で聞いてくるので、フレックは皮はパリパリ肉の旨さギュッと詰まった腸詰めを飲み込んだ。


「戦線は飯が、時々、けっこー外れだったから」


「へえ、てっきり毎食魔物肉で豪勢かと思ってたけど」


「くそまず魔物肉の強制消費をさせられるんだよ」


「こちらでは魔物肉は美味で高級品扱いなので、意外ですね」


「あ、こいつらで美味いか確認させてんじゃん?」


「その可能性は大いにアリ、ですわね」


「逆にまずいの食べてみたいかも」


「まぁ御姉様ったら」


さっぱりとした姉とおっとりとした義姉は馬が合うようで、昔から姉妹のようなやり取りを横目に、フレックは焼き立てのパンを頬張った。

父と兄と義兄は急遽2日休んだツケを払いに出勤、仕事に取り掛かっており、母は母でフレック帰還の挨拶周りをしに、こちらもすでに邸には居なかった。


「今日もお兄様のお下がりだけど、あんたの服、早めに作りにいかないとねー」


成長期に不在となったフレックには、ちょうどよい仕事着というものがなかった。

彼の為の礼服も私服もましてや制服なんて物もないのである。

あるのは戦線で着古した文官服。

ぼろである。

なので昨日と同様、兄のお下がりを着ていた。

けれど幸か不幸かちょっとサイズが小さい、靴は大きい。

だからフレックの今後の生活品の手配をすると言って席を立った姉の言葉通り、体にあった各種衣類が必要であった。

戦線ではおしゃれ不要だった、楽だった。

だから支給品の文官服を着たきり雀していた。

たいそう楽だった。

そんな楽を覚えてしまったフレックは、身綺麗ってめんどいんだなって思ったが、あの氷の貴公子の隣に控える機会が増えることを考えると相応の恰好をしてなければならないよなあ、と複雑だった。


「お暇がいつかちゃんとロッカ卿に確認してくださいね」


ゆっくり朝食を取っていた義姉も、明日も明後日も体に合ってない服じゃ駄目よって念押しして、婚前より始めていた刺繍の仕事へと向かった。

ひとりになったフレックは搾りたての牛乳を飲み干してから、東部に還りたいって切に願って遠い目をした。

けれど執事が馬車の到着を知らせてきたので、仕方なく立ち上がった。

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