2-2

フレックがヘリオスフィアとはじめて会ったのは、まだ5才になるかならないかの頃だった。

特異体質中の特異体質だったヘリオスフィアには早急の対策が必要だった為、異例の早さで婚約が決まったのだ。


「おはつにおめにかかります。ふれっく・とりの、ともうします。ふつつかものですがなにとぞよろしくおねがいいたします」


幼いフレックに婚約がどうのと説明しても左耳から右耳へ、流れ出るだけだと理解していた家族は、懸命に彼に最初のご挨拶を覚えさせた。

それから大人しく落ち着いて敬語を使うように、と注意もされていた。

だからフレックは両親に教わったご挨拶がちゃんと言えたことに鼻息荒くしながら頭を上げた。

挨拶をした相手はとてつもなく綺麗な子だったので、フレックは興奮を抑えることが出来ないでいた。

なんでそんなに綺麗なのか、問いただしたかった。

でも家族、特に母親に大人しくしなさい、と言い含められていたフレックは我慢してぎこちない笑顔を浮かべた。


「君は不束者なのか?」


対してヘリオスフィアは子供の肉体に老獪した魂を宿したかのような、不気味なまでに冷淡な口調で態度でフレックへ問うた。

通常そこで、それだけで、ヘリオスフィアに対して一種の悍ましさを覚える。

彼はそれに慣れていたので、そしてそれを望んでいたので、婚約者という存在と意味を理解していても態度を改めることをしなかった。


「さあ?わかんない、でし。そういえっていわえたのでしゅ」


フレックは溌溂とした、良くも悪くも楽観的な性格の子供だった。

だからヘリオスフィアの冷淡な反応にも、はじめましてだから緊張しているのだと、そう考えた。

綺麗なのに緊張するなんて可愛いな、と思ったら自然と笑顔になってしまう。

にぱーっと笑うフレックにヘリオスフィアは瞠目し、少しだけ表情を綻ばせた。


「…君がしたい本当の挨拶をしてもらってもいいだろうか」


本当の?

それになんの意味があるのかフレックには分からなかった。

けれど確かに言わされたご挨拶は挨拶した気にならなかった。

普段の口調とあまりにもかけ離れた、言わされた台詞であったから。

だからフレックは周りの大人が止める前に元気にご挨拶した。


「ん!いいよ!こんちわ!おれ、ふれくしゅ!とりお!きょうからよろしくな!」


楽観的な性格を表すような、貴族とはとても思えないご挨拶であった。

けれど、今日ご挨拶するのはずっと仲良くしないといけない子、そう説明されていたヘリオスフィアにちゃんとご挨拶出来たフレックは、満足気に笑みを浮かべた。

だって仲良くしたいなって、フレックはひと目見ただけで思ったから。

そしてヘリオスフィアも微笑んでくれたから。

なんだか嬉しくなって一歩ヘリオスフィアに近づく、そしたら一歩後退されて、フレックはちょっと悲しくなった。

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