5-1

濃密だった昨日をフレックはパンと一緒に咀嚼する。


あの後、光速で報告書を作成提出したヘリオスフィアに自宅の玄関ホールまで送られたフレックは、口数少なく晩御飯を食べ、早々に眠った。

家族にはどうだったのかと問われたが、とても説明しきれなかったし、口も開けられなかった。 

だってとっても疲れていたのだ。

気を使ったし、気を張ったし、色んなことが多すぎたのだ。


その疲れは一晩寝たら大体回復するフレックの身体からとれなかった。

ばっちし寝たのになんでだろ、と思いながらフレックはひとりもそもそ朝食を食べ進める。

例によってトリノ家三組夫婦は朝もはよから動いてもう居ない。

トリノ家の人間はそういう性質を持っており、それ故晩御飯は全員でとるって決まっているから、フレックはひとり朝食には慣れっこだ。

まぁ兄夫婦は別邸に住んでいるので居ないのは当然なのだが、兄としては職場の中心人物の動向は気になるようで昨夜の晩御飯にもいた。

今夜はそんな兄と家族にどんなんだったか説明したいが、果たして出来るだろうか。

また自称聖女凸があったら、ヘリオスフィアは今度こそ軽く氷漬けにしてしまうかもしれない。

そういう予感して、フレックは直ぐ様己を馬鹿だなって一蹴した。

守り包まれたからって、それは、あれは、騎士として当然の対応だった。

フレック・トリノじゃなくっても、ああやって守って包んで、優しいのだ特別じゃないのだ。

想像して胸が痛んだ。

本当に、馬鹿だ。


フレックはもう考えてまいと、美味しいソーセージにかぶりついた。

うん、ちゃんとしたお肉が詰まった腸詰めはホント美味しい。

処分面倒魔物合い挽き肉の、遥か上をいく美味にフレックは意識を集中させた。

させていたからこそ、ヘリオスフィア到着の報せに驚き焦り立ち上がり、見事に転んでしまった。

そこに優しい騎士は無く、床に体を打ち付けたフレックは、ぶべっ!と声もらし痛みで硬直した。

執事とメイドが大慌てする中、フレックはひさしぶりの苦痛に耐えた。


「フレック!」


「あ…」


騒ぎが馬車にまで伝わってしまったのか、駆け寄って来たヘリオスフィアに抱き起されてしまったフレックは、泣きそうになる。

こんなの助け起こさなくてもよいのにって。

こうやって助けるのが当たり前なんだよなって。

今現在の自分の立場に、フレックは東部魔鏡戦線が恋しいとさえ思い始める。

けれど、引き留めるように、ヘリオスフィアが手を握る。


「また急いだのか?」


「う、はぃ」


「急いではいけない。良い部分を傷付けしまったらどうするんだ」


「はい…」


フレックを椅子に座らせやんわり窘めるヘリオスフィアに、フレックはそもそも早く来るのがいけないんだって唇を突き出した。

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