4-14
何で痛いの?
何で?と戸惑い、ヘリオスフィアの腕の中、胸に寄り掛かりながら顔を上げた。
悲しみと怒り、悔しさがシワとなり、ヘリオスフィアの気持ちを教えてくれた。
「ああ…フレック…すまない…」
辛そうな表情のままヘリオスフィアがそっと唇に触れるから、フレックはそれで熱くて痛い意味を理解した。
「ひぇ…いひゃい…よぉ、りおぉ…」
フレックは、片目が潰れた時も片足に怪我をした時も、傍にはもう居ないヘリオスフィアに助けを求めていた。
何があっても守るからと言ってくれた言葉がどうしても頭から離れなくって、頼もしい幻想のヘリオスフィアに縋って甘えてしまったのだ。
そして今も、その甘えは抜けず目の前の本人へ、縋ってしまう。
それくらい痛かった。
どうやら突き飛ばされた勢いで、抱き留めたヘリオスフィアの制服の装飾に唇が当たり、切れてしまったようだ。
「ぁ…りぉ…」
そんな患部に、ヘリオスフィアの指が触れている。
痛いはずなのに痛くなくって、熱いはずなのに顔の方が熱くてぼおっとする。
「静かに、私はあまり治癒魔法が得意ではないんだ」
真剣な眼差しに不得意だからと言われてしまったら、フレックはされるがままで居るしかなかった。
なにか誰が言っている気がしたけれど、ヘリオスフィアの優しい魔力に夢中で聞こえない。
自分の特異体質の所為で余計な時間を食わせてて申し訳なくて「いいんだ」と囁かれ、フレックは胸がじわっと熱くなった。
「ね、だから治癒なら私が」
突き抜けに何も考えてない声色に、フレックはなんだか目が覚めた気分だった。
そうか、聖女と名乗っているのだ、治癒魔法に優れていて当然だ。
さっきからずっとそれを言っていたのだろう。
けれどフレックは、正直、ヘリオスフィアに治して貰いたい。
痛いのからずっと救って欲しかった願いが、今叶って涙が零れる。
その涙を勘違いしたのか、ヘリオスフィアがいっそう優しく魔力を注ぐ。
「五月蠅い、黙れ、去れ」
そんなことを考えるフレックをやんわりと胸に抱き込んだヘリオスフィアが、本格的に絶対零度の言葉を吐いた。
流石にその温度の低さに自称聖女と三人の男子生徒は不味いと思ったのだろう。
慌てた足音、扉が乱暴に閉まる音が聞こえた。
またくるわねーって聞こえた気がしたのは、きっと気のせいだ。
「…フレック、見せてくれ…良かった、塞がってる」
抱き込まれていたフレックは、確認を求めるようにヘリオスフィアを見上げた。
空色の瞳が平静を取り戻し、安堵の笑みが美しい。
もう痛くない、すごい、フレックはなんでも出来るヘリオスフィアがますます好きになっていた。
無駄なのに。
「あ、ありがとうございます、ロッカ卿」
無駄だからわがままを踏み殺したフレックに、いいんだ、と微笑むそれが少し悲しそうに見えた。
きっと気のせいだってフレックは思って、再び抱き締められることにした。
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