4-13

虹色の瞳に銀の髪の美しい少女、シンシア・ナタリエ。

フレックの兄の話によれば彼女は商家の出身、爵位は無い。

学園では身分関係無く切磋琢磨し合う者とあるが、生徒会の仕事をこなしている部屋にノックも無しに、無関係な連中ぞろぞろ引き連れ入室、そして、婚約者でも無いのに愛称でもって気安く呼ぶ。

いくらヘリオスフィアでも、この礼儀の無さの連続に温度が失せたのだろう。


ヘリオスフィアから凍てついた気配駄々洩れだというのに、空気も読めないナタリエ嬢は、普段は空席の椅子に座って居るフレックに気が付いた。


「あら、あなた、だあれ?」


認識されたフレックは、この自称聖女の綺麗な子にどう対応するのが正解なのかと迷った。


「えと、私は」


それでも名乗らないのは自分の意に反する。

そう思い口を開けると「フレック、答えなくていい」ヘリオスフィアがピシャリと制してくる。

それは氷の剣だった。

関わってはいけないという忠告だ。

フレックには守り、ナタリエ嬢は冷気、だったのだが彼女は体感温度もおかしいのだろう。


「ちょっとぉ!いいじゃない!ね、御名前は?」


まったくめげずに身を寄せ問われ、フレックは押しの強さに流されるまま口を開けてしまった。


「ふ、フレック・トリノと申します」


「フレック・トリノだと!?なぜ貴様が此処に居るのだ!」


「君は元婚約者で、ヘリオスフィアの汚点じゃないか」


「…厚顔無恥とかこのことか」


「ブタックって痩せると可愛いのね」


まったく名も知らぬ普通科の男子学生に罵られても、フレックはその通りなので気にしなかった。

ただナタリエ嬢のブタックという発言が気になった。

夢の中の太っちょだった自分のあだ名であり、今のフレックはブタのような体系ではない。

なのに何故、ブタックと?

果たして彼女に問うて欲しい解が得られるのか。

甚だ疑問であったがフレックは訊ねようとした。


「貴兄ら、邪魔だ、去れ」


ところがヘリオスフィアが氷の刃を放った。

三人の男子学生はヒュっと息を呑んだ。

けれど何処か何かきっと彼女は壊れているのだろう。

ナタリエ嬢は馬耳東風とばかりに、フレックの腕を掴んだ。


「ね、ブタックちゃん。おしゃべりしましょ」


なんだか、妙な魔力の気配を感じた。


「え、え?」


これ何?と考える間もなく、力一杯腕を引っ張られたフレックは、立ち上がらずおえなかった。

けれど一方的なそれに、足元悪いフレックは当然とふらついた。

そうして引っ張られるまま彼は彼女にぶつかった。


「きゃっ!なによ!」


柔らかい、感覚の後に抗えない突き飛ばし。

フレックは何処にも掴まれず、床に叩きつけられることを目を瞑り覚悟した。


「っつぅっつ!」


「フレック!」


その声と感触にフレックは安堵した。

けれどいつもは痛くないのに、唇が熱くって痛い。

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