5-2

フレックの分かりやすく貴族らしからぬ表情が面白かったようで、ヘリオスフィアが楽しそうに笑いを転がす。


「ふふ、拗ねるな」


はひぇ、と漏らすほどの美しさだった。

その奇妙な声も面白かったようでクスクス肩が揺れている。

やめて欲しいけどやめないで欲しいその笑い、結局黙視しながら朝食を食べ終えることにしたフレックは、ある変化に気が付いた。


「…今日の装い、すごいすっきりしてますね」


長い脚を組み隣に座ったヘリオスフィアの制服には、昨日のような装飾が殆ど着いていなかった。

すっきりと言えば聞こえは良いが、魔法騎士団所属のネクタイピンを目の留めること出来なければ、普通科の生徒扱いされかねない装いだ。

これはこれで問題があるのでは?と心配になるフレックに、ヘリオスフィアは優しく微笑んだ。


「最悪なことが起きてしまったからな」


それは、とフレックは言葉とご飯を詰まらせる。

そんなフレックの背中をヘリオスフィアが優しく撫でる。


「君に二度と怪我など…させるものか」


騎士としてのそれに、フレックは本当に本当に勘違いしそうになった。

そうやって勘違いさせて困るのはヘリオスフィアなんだからね!と思いつつも、フレックは愛想笑いで事なきを得た。


「フレック」


なにか寝癖でもあったのか。

頭を撫でられる。

眼帯を弄られる。

フレックはわがままフレックと心の中で戦った。


「はい」


勝利した文官フレックが心中雄叫びを上げていると、


「制服が届いたから持って来たんだ」


「え?」


わがままフレックもビックリなことを言われ、ふたりで揃ってまじで?ってヘリオスフィアを見つめてしまう。


「学園内では制服以外の者は目立つ。まだ時間はあるだろう?朝食を食べ終えたら着替えておいで」


「はい…あ、ありがとうございますっ」


まじの事実に、フレックはわがままフレックと手を繋いで飛び跳ねた。

そうして心の底から感謝溢れたフレックに、ヘリオスフィアは呼応するかのように微笑みでそれを受け止めた。

微笑みながら頭を撫でてくるので、しつこい寝癖がついているだなって、フレックは自分を納得させた。


「それからこのマントも、膝掛に使ってくれ」


「え、あ、は、い」


空間魔法から取り出され手渡されたのは紺色のマントだった。

ヘリオスフィアが着用するマントの小さい版だった。

装飾は一切無く、ただただ美しい『六華』の刺繍が施されている。

寒ければ防寒具としても役立ちそうな、膝掛けにするにはだいぶ高貴な、でも送り主はその足の冷えを心配ということで。

フレックは、穴が空いても修繕しまくって使い倒そうと心に决めた。


「ありがとうございます。ロッカ卿。大事に使います」


「ああ…」


一瞬の悲しみを交えた後に、ヘリオスフィアはフレックの眼帯に触れた。

憐れまれている内が花と、フレックは朝食を急いで食べて詰まらせ窘められた。

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