5-3
ヘリオスフィアに制服を贈られたフレックは浮かれた。
そりゃあもう浮かれてまくった。
着れないと諦めていた制服を、まさかヘリオスフィアが送ってくれるなんて、と浮かれていた。
家宝にしようと決めた。
大事に着ようって決めた。
マントも大事に大切にしないとって思った。
そうしたら転ばないようにしないとって、注意力高める決意をした。
だから今日はまだ転んでない。
「…こういう効果を狙って…?」
「フレック?何か問題が?」
集中して黙々入力作業をしていた為、フレックの唐突な独り言は室内にしっかり響いてしまった。
ヘリオスフィアに聞こえない筈もなく、心配した騎士は当然とフレックの傍にやって来てしまう。
なんて心配性な騎士なのかとフレックは慌てた。
「あああ、いえいえ、だいじょうぶ、です」
「それならいいが…」
納得いってない、という素振りと共に膝に掛かっているマントを直し、ヘリオスフィアは自席へと戻る。
フレックは気を取り直して記録板に向かった。
両手の袖口深緑で、口元は自然と緩む。
サイズ、調度良くって、本当に通ってる学生みたい。
うふふって、もらしそうになった。
いやもらした。
「フレック?」
ヘリオスフィアがまた横に来ていた。
暇じゃないだろうに気遣った様子で。
フレックは「制服に浮かれています慣れるまで少々お待ちください」と正直に浮かれている旨を伝えた。
子供じゃないのだからと叱責されようと思ったのだ。
そうしたら身も心もシャンとする。
ところがヘリオスフィアは蕩けるような笑みを浮かべた。
「そうか、それは良かった」
その笑みのまま頭を撫でられたフレックは、じゃあ公認ってことで浮かれまくりますからね!?と心の中で逆ギレした。
でも滞りなく今日分の入力は完了させた。
だって東部魔境戦線で鍛えられた文官だもの。
そんなこんなでその日は無事に帰宅。
フレックはようやく家族に現状を説明することが出来た。
特に自称聖女の無礼な突撃はトリノ家に衝撃を与えた。
そんな自称聖女に、一昨日は一緒に居なかった第一王子が傾倒しているなんて…と。
まともに取り合わずヘリオスフィアに守ってもらうように、とフレックは釘を刺された。
これ以上守って貰ってどーすんの?って思った、思ったが王家に正面向かってたてつけられるのは、第一王子のはとこであるヘリオスフィアしか居なかった。
「…そう言えばニューノ家側は、俺が補佐してるの良く思ってない方々が居るのでは?」
方々と言ったものの、ヘリオスフィアの両親と弟の顔がフレックにはすぐ思い浮かんだ。
ニューノ家は王族と血の繋がりのある、カミオカンデ王国筆頭貴族だ。
その長子にして超絶優秀男前のヘリオスフィア。
その元糞屑婚約者。
一緒にさせておくにはあまりにヘリオスフィアの足枷汚点お邪魔虫でしかない。
そんな疑問が頭にひょっこり浮かんだフレックの言葉に、家族は思い思いに口やら眉やらを軽く歪めた。
「その辺のことはあまり気にするな」
「ヘリオスフィア殿にも聞くなよ」
「なんで」
「フレック」
「はい、母上」
「求められることに精一杯応えなさい。今はそれだけに徹しなさい」
フレックは幼い頃から楽観的で、それが色んなことに影響を及ぼし続けた。
短慮とまで言わないが、大事をまぁなんとかなるよぉと楽観的に捉えては失敗を繰り返していた。
貴族には不向きだと、トリノ家はそう思ってはいた。
厳しく躾ければ、フレックが楽観的な行動を取ることはなくなるだろう。
けれど、その楽観的な部分に家族はフレックの本質が存在しいると理解しており、また愛していた。
だから今日まで、フレックの致命的ながらチャームポイントの楽観的な部分は彼の中心に鎮座しているのだ。
そんな思い胸に秘めた母に、真剣な眼差しでそう言われたフレックは、そう楽観的なフレックは、まぁ確かに自分は拒否権がそもそも無いんだしってことで、余計な口出しせず仕事に専念しよー、と思った。
「そうします母上」
「そうなさい、フレック」
実に操り易い。
そして素直。
変わらぬ楽観的思考に、トリノ家はホっと胸を撫で下ろす。
フレックはなんでみんな安心したのか、気になったけどデザートの林檎のコンポートに全神経集中して、まあいっかってなった。
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