5-4

制服を着ての補佐。

あくまで補佐なのだが一学生として登校している気分になって、フレックはもう何日目かの制服でも浮かれていた。

浮かたまま、フレックは調子に乗った。

調子に乗ってるから作業も順調だ。

こんな平和な世界での入力作業、順調じゃなきゃ可笑しいのだ。

だから、このままガンガン進めて、ヘリオスフィアにすごいなフレックと言われたい。

そう考えたフレックは、ついに自分で資料を持ってきて進行度進めようと、資料室へ足を踏み入れた。

本日の分は見直しまで終わってしまっているのである。

足りない足りないって要求しても、ヘリオスフィアが資料の山を増やしてくれないのである。

ともすれば暇なのである。

だから、まだ、お昼休憩まで時間は余っているので、追加で仕事をしたいのだ。

フレックは狭い資料室を思い出し、整然並んだ棚に手をつけばいい、そう判断し杖は持たずに立ち上がった。

久しぶりに入室したそこは、全ての棚に資料がぎゅうっぎゅうっ。

まだまだ、作業は続きそうだと、まだ、まだ、ヘリオスフィアの傍に居られるのだと、おろかしい欲望頭を振って振り落とす。

紙束詰まってはち切れんばかりの資料棚の隙間を縫って、奥へと進んで、少しだけ空間が出来ている部分をフレックは見つけた。

そこは資料室の最奥、棚の一番上であった。

あの空きが入力が済んだ資料分ということか。

それじゃあその隣の山に手を付ければ良いんだな。

フレックはいそいそ手を伸ばした。


「あれ、とどか、な、い」


いや届いている。

山の底の方に手が、指は引っ掛かる。

フレックは精一杯両手を伸ばした。

右足は頼れないので左足だけでうんと背伸びをして、ついにその手に資料が。


「ぎゃあぁ!」


フレックの小さな悲鳴の上に、一枚は軽やか、集まったら鈍器の集合体が落ちる。

ドサドサ、バサバサ、重力に身を任せ、紙資料が落ちていく。

それらから逃げる能力を持ち合わせていないフレックは、資料の下敷きになってしまった。

重い物、当たったとこ、声も出せぬほど痛い。

体が、変な方向に曲がってる。

重さに押されるまま床に倒れ込んだから、足が腕がクロスして体もねじれてて、圧し掛かる資料かとても重い。

フレックは起き上がろうともがいた。

だけどどうにもこうにも、動けない。

痛い、重い。

資料と床が冷たくて、ああマントを肩にかけくれば良かったと呑気に後悔してしまう。


痛い。

怪我をしたのは久し振りだ。


苦しい。

柔らかな部分に資料がめり込んでくる。


寒い。

体温がどんどん無機物に奪われてく。


痺れる。


辛い。


痛い。


フレックは、もう、耐えるしか出来なかった。

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