6-1

終業作業は明日の自分が苦労しないようにちゃんとする。

東部での経験により、フレックは机廻りを掃除していた。

ついでに旧生徒会室内の掃除もしていた。

ひょっこひょっこ足を引きずりながらだが、ヘリオスフィアが止めることは一度もなかった。

何故なら一緒に掃除しているからだ。

箒を持っても麗しいヘリオスフィアに、当然のように手伝ってくれる騎士に、フレックは腹立たしいことに惚れ直してしまっていた。


「フレック」


「はい」


「明日は学園が休みなんだ、何か予定は?」


掃除用具を片付けながら問われたフレックは、休みってのは一日仕事が無いっていうアレか、と目を見張った。

東部では夢物語の休日。

そうか、中央にはあるのかぁとしみじみ。

しながら、姉達に言われていた言葉を思い出す。

休みが出来たら洋服を買いに行くっていう話。

でも、ヘリオスフィアにそう問われたら「いいえ、特には」としか言えないのがフレックだった。

だってその問い方は追従を求めてる。

いくらフレックでもそれくらい分かる。

さて何処へお付き合いすればよろしいのかと、文官フレックは背筋を正す。


「そうか、それじゃあ一緒に出掛けよう」


みるみる、ヘリオスフィアが嬉しそうに笑みを浮かべる。

予定が無いって返答が正解で、フレックはむふーっと喜びそうになってから、顔の変化をなんとか抑え込んだ。

というか今なんて?


「えと、おで、え?」


お出掛け、という言葉には、仕事の匂いがしなかった。

つまりお出掛け?

え?

それって、え?

まっさかーと、フレックは楽観。

文官としての能力が必要な用事なんだろうって、ちゃんと思い直せた。


「明日の朝迎えに行くから、待っていてくれ」


頭をひと撫で、そこから肩、腕を伝って手、軽く握られる。

ああ、手まで綺麗なヘリオスフィア。

少し冷たい。

思わず握り返してしまう。

何やってんだと離す前に、きゅっと握り締められ逃げられない。


「杖も忘れずに」


「あ、う、はい」


しばらく、ヘリオスフィアの手から冷えが失せるまで。

その手は離れなかった。



帰宅したフレックは、姉達に明日は休日だけれどもヘリオスフィアに誘われたのでごめんなさいって、ちゃんと謝罪した。


「まあ断れないしね」


「楽しんで来て下さいね」


そしたら姉達は想像とは真逆の反応を示し、むしろ精一杯おめかしするのを手伝ってくれたのだ。


「なんでそんな楽し気なんです?」


「そりゃあまぁ、ねえ?」


「ねぇ、御姉様」


「ねぇー」


「姉妹感つよっ」


実弟をよそに仲良し義理姉妹に挟まれああだこうだとコーディネート。

されまくったフレックは御洒落って本当に面倒くさい、と魔境戦線に染まった心身を姦しさに委ねたのだった。

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