8-5

宣言した通り、フレックはペースを落とし作業を進めていた。

ヘリオスフィアもそれを想定してか、いつもより少な目の資料を机に積んでくれたので、フレックは気負うことなく文字を入力確認保存繰り返す。


ヘリオスフィアが授業を終え、騎士団の報告書を作成している間に、フレックはようやっと本日分を終了させた。

無理しなくてよかった、とフレックは少し疲れた身体をほぐすように伸びをした。


「今日はお茶をして帰ろうか」


「え、いいんですか?」


「今週は出掛けないからな、そのかわり寄り道しよう。時間は?」


勿論あるし無くても「ありますっ」ヘリオスフィアの誘いには脊髄反射で肯定フレックは、寄り道寄り道と浮かれ始めた。


「失礼致します、サード・ジェゴでございます」


控えめなノックの後、入室許可の声。

フレックは「どうぞ」とヘリオスフィアのかわりに応えた。


はたして入室したのは5日ぶりのサード・ジェゴ。

珍しく制服姿であった。

ああ、騎士団も休みだから寄り道出来るのだ、とフレックはジェゴの姿を見て理解した。


「報告書をお預かりに参りました」


「少し待て…このメモを集計したのは誰だ」


「…プルトゥ卿です」


「わかった、いっておく」


「はい、よろしくお願い致します」


なにやら問題が生じていたようだ。

プルトゥ卿と名前が挙がって、それに対してまたあいつかというヘリオスフィアの反応に、フレックはやや嫉妬していた。

プルトゥ卿は紳士だったが、やはりヘリオスフィアと気の置けない仲なのが羨ましい。

本来なら自分が、収まってても良い場所に、ないものねだりだ切り替えろ。

フレックは待機姿勢となったジェゴに微笑んだ。


「トリノ殿、御加減はもうよろしいのですか?」


ジェゴは騎士として旧生徒会室に訪れている。

だからいつも私語はしない。

わきまえているのだとフレックは感心していたし、だからこそフレックからも話し掛けるようなことはしないでいた。

けれど今回は別だ。

気にしているだろうし、こちらもしなければならないことがあるからだ。


「はい、お陰様で熱は下がりました。大変お世話になりました」


深々と座したまま頭を下げる。

立って下げると転んで迷惑を掛けるからで、ジェゴなら理解してくれだろうとフレックは甘えたのだが、


「それは、良かったです。その、やはり御傷が原因で?」


ジェゴはむしろ気遣うように傍に跪き、フレックへ微笑み返す。


「そうなんですよー、東部でも何度も発熱して、でも、あっちは緊張感があるから熱があっても働けたんですよ。まぁそのかわりその日の夜は大変なんですけどねぇ」


灰色の眼が思ってたより優し気で、こいつぁも少ししたらモテるなってフレックは思った。


「…熱があってもはたら…?本当に、大変でしたね」


そっと手を取られる。

大きくてゴツゴツした手だった。

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