8-4
高熱には悪夢が伴う。
仕事中無理したツケを夜に支払い返すフレックは、いつも恐ろしい夢に魘された。
東部でひとり苦しみ自分で自分を抱き締めた。
なのに悪夢なんて見ずに、すっきり、目が覚めたことにフレックは驚いていた。
しかも高熱の後はかならず倦怠感に襲われる、はずだった。
東部魔境ではそうだった。
薬と状況下とアドレナリンでなんとか働けたが、腑抜けた今ださぞ酷い倦怠感に襲われるだろうと、フレックは考えていたのに。
熱が下がったフレックの身体は軽かった。
めっちゃ、めっちゃ、お腹も空いている。
そして元気だ、もう、今すぐにでも働けるくらい元気だ。
そんな馬鹿なとベッドから抜け出し、空腹フレックはご飯ご飯と廊下に出、メイドに捕まり逆戻り。
どうやら高熱が出たら2・3日は安静が、中央の考えらしい。
すぐに動いてご飯だなんてっと、若いメイドにすら怒られてしまった。
フレックは素直に従うことにした。
そうしないとご飯持って来てくれないと言われたからだ。
それでも頭も身体も元気だから、暇なフレックは失態の補填方法を一生懸命思案した。
フレックは緊張しながら玄関ホールで待機していた。
ヘリオスフィアに会うのは5日ぶりだった。
大事をとって休まされたのだ。
ついでに今週のお出掛けの約束も無くなった。
かなりショックなお知らせだったが、仕方のないことだ。
せめて来週の遠出は無くなりませんように、とフレックは願いつつ背筋を伸ばしヘリオスフィアを待った。
しばらくして、颯爽とヘリオスフィアが現れる。
たった5日会わなかっただけで、こんなに新鮮で懐かしくて倒れそうになるなんて。
何度目かの一目惚れに顔面が溶けないよう注意しながら、フレックは座ったまま頭を下げる。
立って頭を下げたらその勢いで絶対転んで、ヘリオスフィアに叱られると予想しての無礼だった。
「ロッカ卿、大変ご迷惑をお掛け致しました!」
深々頭を下げてからゆっくり姿勢を元に戻すと、座したままの謝罪をむしろ褒める様に頭を撫でられる。
褒められた嬉しいって、むふーっと鼻息を荒げてしまい真顔で取り繕う。
「気にしないでくれフレック。私が君の不調に最初に気付けば良かったんだ…」
心苦しそうなヘリオスフィアに、フレックは慌てて首を横に振った。
「いえ、あの、体調が悪いことを申告しなかった私が悪いのです」
それでも自分が悪い、と言うように隣に座ったヘリオスフィアがフレックをふんわりハグする。
こんなに心配させてしまったなんて。
フレックは大反省、しながら「その、部屋まで運んで頂きありがとうございます…」気を失った自分を馬車からベッドへ運んでくれたことにお礼を告げた。
「…ふふ…」
「…へ、へ、へや、みましたよね…?」
「どうだったかな」
喜色が隠せてない返答にフレックは諦めた。
現在フレックの部屋には、ヘリオスフィアと共に出掛けた時に購入したお土産が飾られていた。
タンスに入りきらなかった洋服も吊ってある。
最近一緒に買った専門書も床に積んだまま。
幼い頃に描いて交換した絵なんかも飾ったまま。
大事なポーチだって机の上に置いてある訳で。
つまりはヘリオスフィアが見覚えがある物ばかり置いてある状況で、あんまり片付いてない状態で、フレックはそれが恥ずかしかったのだ。
「…今日の具合は?」
「あ、大丈夫です。でも、無理しないように少しペースを落として作業します」
「うん、よろしい」
ぎゅっと、強く抱き締められたフレックは、本当に次から気を付けようと気を引き締めつつも、久しぶりの抱擁に顔が綻ぶのを止められなかった。
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