8-6
騎士としての慰労、それを感じたフレックは「ぜーんぜんっ、文官なんて前線も知らないし、ほとんど建物の中で生活してましたから、ホント、楽でした」魔境戦線では一番安全な職場だったと強く主張した。
「…東部は、本当に過酷な場所なのですね…」
ジェゴからは心の底からフレックを労わる気持ちが溢れていた。
フレックは勿論、受け止めた。
けれど、すっと姿勢を正しジェゴをひとつの眼で見つめた。
「過酷というのは、矢面に立った者たちへ、この慰労も、その者たちへ向けて下さい」
そこには死があった。
名も知らぬ者が何人も死んだ。
毎日が死。
名も無き魔獣も死んだ。
フレックはそれを報告メモでしか知らない。
どんな現場で、どんな状況で、その仲間は、天気は、空気は、気持ちは。
知らない。
ただ震える文字を刻み込むだけ。
死を勝利を入力するだけ。
それでも文官も仲間だと言ってくれた戦士は死んだ。
文官が居るから現場も回ってると言った兵士も死んだ。
それをいつも文字だけで、時には口頭で。
そこに居ないで。
だからその気持ちは戦線の前線の戦う者達へ。
フレックはそれを望んでやまなかった。
ひりつくようなフレックの真剣な言葉に対し、ジェゴは真摯な眼差しで頷いた。
反射ではなく、心の底からの理解。
その反応にフレックは満足し「あ、そうそう、お渡ししたい物がありまして…」制服のポケットへ手を突っ込んだ。
フレックは色んな才能が無いので、当然空間魔法も使えない。
その為物理で物を持ち運ぶしか出来ず、今日は少し制服が重かった。
「良かったらこちらをどうぞ」
取り出したのは手のひら大の魔石であった。
その輝きは虹色、無属性の塊を表していた。
手渡された魔石に触れた瞬間、ジェゴは目を丸くして驚きの声をあげた。
「え、え、え…あ、ありがとうございます…!これは、すごいですね…!」
そうして宝物のように両手の上、魔石を見つめる。
それはフレックがヘリオスフィアへ送り続けた、魔力吸収が付与された魔石であった。
「特異体質の魔力吸収を魔石に付与するのわりと得意なので、どうぞ、消耗品ですし」
魔力暴走の特異体質の者にとって、過分にあっても困らないだろうと、フレックは考えお礼の気持ちで渡そうと思ったのだ。
「ありがとうございます!」
以前のあれこれで家に余っていた魔石で作っただけの物だったので、ここまで感謝されると思って居なかったフレックは「ご、ごえんりょなくぅ」ちょっと申し訳なくなってしまう。
そんなフレックの両肩を抱き締める両手が現れる。
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