4-10
それから少しして、遠くの方で鐘が鳴る。
「ああ…もうこんな時間か…」
「あ、授業、遅れたらいけませんので、お急ぎ下さい」
鐘が鳴ってから移動で大丈夫なのだろうか、とフレックは慌てた。
遅刻は厳禁、東部では重罰だ。
フレックは心配になって眉根を寄せヘリオスフィアを見上げてしまう。
「昼食は用意してある。私が戻り次第一緒に食べよう。喉が乾いたらこの水筒を、小腹が空いたらこの焼き菓子を、誰が来ても今日は応じずに、いいね?」
けれどヘリオスフィアはフレックのそんな視線を残される不安と勘違いしたのか、優しく頭を撫でる。
子供扱いにフレックは言葉を失った。
わがままフレックがもっと撫でてーと暴れた。
「か、畏まりました。お待ちしております」
しかして文官フレックが、姿勢を正し行儀よくお見送り成功せり。
「決して無理はしないように」
なのに念を押され腑に落ちなかった。
去って行く背中を見送ったフレックは、ここは東部魔境戦線で鍛えられた文官としての能力を見せつけるしかない、と早速仕事に着手した。
幾度か鐘の音遠くの方に。
ヘリオスフィアが机に積んだ資料を入力し終わったフレックは、息をひとつ吐き出し背伸びをした。
初期の生徒会資料とあって、時代を感じさせる文体字体と、かなり癖の強い敵であった。
ただそのまま記録板に入力するだけだったので、フレックには簡単な仕事に感じられた。
読み解き解りやすくしつつ、みたいな注文をつけられたら無理だ。
ヘリオスフィアは理解しているようで、これはこういう資料で、と説明は受けたが地頭力の格差をフレックはキチンと受け止めた。
なんのこっちゃ分からんことを回りくどい文章でくどくどと。
書き手はとある候爵家ととある王族なので、当然と言えば当然の文書体なのだが。
果たしてこれを後世に残す必要性があるのかどうかは、フレックの領分外の思考だ。
きっと必要なんだろうと、フレックは内容と残す意味が理解出来るヘリオスフィアを待つことにした。
「…ふふ…待たせたなフレック」
「え?あ!えと、ぃ、いえ、大丈夫ですっ」
大丈夫ではなかった。
待っても待っても、水筒とお菓子を空にしても、ヘリオスフィアが戻って来ないので、フレックは調子に乗って黒机の椅子に座って遊んでいた。
ふっかふっかの、腰に負担が掛からない計算された椅子に座って、ヘリオスフィアがここでどう過ごすのか、フレックは想像した。
よどみなく資料に目を通し格好良い字をサラサラ書いて、記録板をなんなく使いこなして…。
そんな妄想でニヤニヤしているところに、ヘリオスフィアが戻って来てしまったのである。
やっぱり大丈夫じゃなかった。
フレックは急いで椅子から立ち上がった。
転ばぬように机にちゃんと手をついてたのだが「フレック急に立ってはいけない」ヘリオスフィアが直ぐ様介助の為に腰を抱く。
そのまま応接用のソファへ移動するので、フレックは大人しく従った。
椅子で遊んでたことを突っ込まれたくなかったのである。
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