4-7
ヘリオスフィアは声を掛けて来た女子よりも悪寒に震えた体に視線を落し「寒いのか?」答えを待たず空間収納魔法のからマントを取り出しフレックに羽織らせる。
それは騎士の礼服である紺のマントで、フレックは慌てた。
「おはよう、チェカ女史。如何された」
フレックがこれは駄目ですって言うのを遮るように、ヘリオスフィアが女子へ向き直る。
ヘリオスフィアの行動に目を丸くしていた女子は、戸惑いながらも笑顔を浮かべた。
「あの、新しい試作品の実験にまたご協力して頂きたいんです」
可愛い子だなって、フレックは改めて女子を見て思った。
学園の制服を着ているし、気軽に挨拶していることから学友であることは知れた。
可愛い容姿と知性溢れる眼差し、そして技術科で学ぶ者の証であるローブを羽織っている。
そしてその発言にフレックは希望を見出した。
彼女は魔導具開発を専攻している。
試作品の実験にまた。
つまりは特異体質を抑える治せる。
そして彼女は、多分きっとヘリオスフィアが好きに違いない。
だって傍に居る、フレックへの視線に戸惑いが混ざってる。
あからさまだけどわかりやすい好意。
きっと愛情深いに違いない。
彼女との幸福。
これを祝福する。
それで行こうと、フレックは、思った。
だけど胸が痛んで、つい、胸元の指輪を撫でてしまう。
「その件か。すまないが、私ではない被験者に依頼してくれ」
「え?でも、その、魔力量はニューノ様が一番多いので」
「私の傍には本日以降、魔力吸収の特異体質であるフレック・トリノが在る。君の望む結果は得られない」
「と、ふれ、え?トリノ・フレック?え?何故ここに?」
「…フレックが居る事が、君と何の関係が?」
チェカ女史とヘリオスフィアが話していることに、わがままフレックが嫉妬した。
自分とだけ話して欲しいと駄々を捏ねる、わがままフレックがマントを握り締めた。
まだ好き。
違う。
好きだから幸福を願っているんだ。
会話に挟まる余地も意味も無いフレックは、雲行きが怪しくなってきた会話に背筋がゾっとした。
だって今、本当に周囲の温度がちょっと下がった。
「…じゃなくない?……にもう追放されてたんじゃ…?」
小さな、小さな呟きだった。
はっきりと聞こえなかったが、彼女にとってフレック・トリノがここに存在している、ということ自体が信じられない様子だ。
だから洩れてしまった本音の所為でまた温度が下がる。
明かに、冷えた。
凍てつく世界が広まって、けれど支える腕も手も体も、暖かい。
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