7-9
「ジェゴ卿は気持ちの良い騎士様に成りそうですね」
フレックは今日の一番の出来事を馬車に乗るなり話し始めた。
騎士としてきっちりかっちりとした対応を崩さなかったヘリオスフィアに、ジェゴが憧れてるっていうのを分って欲しかったのだ。
「サード・ジェゴ…か…」
歯切れの悪い呟きは興奮したフレックには届かない。
「きっとロッカ卿に憧れていることでしょう」
まったく、なんてキラキラした目をヘリオスフィアに向けるのか、とフレックは鼻息荒くふすんした。
きっとヘリオスフィアは目標で。
尊敬してて。
すごくて。
かっこよいから何か真似とかするかもなー、と。
そう言えばあの優しい眼差しヘリオスフィアにもう似てた。
ハっとなったフレックの、眼帯を何故かヘリオスフィアが調整し始める。
距離が、近いので、やめて頂きたいとフレックは顔を真っ赤にさせた。
「…そうだと、良いのだが…」
「そ、そうでしゅとも」
異様な距離感にフレックは、目の前のヘリオスフィアのこと以外考えられなくなってしまう。
「…フレックはジェゴ卿のような者が好きなのか?」
「は?俺はリオがいちばん…」
だから問われた内容に対して脊髄反射で答えかけ、フレックは慌て決定的な言葉を飲み込む。
飲み込んでも遅かったのが、ヘリオスフィアの表情から指先から伝わってくる。
いや間違ってないのだからいいんだ。
え?
元婚約者からの想いなんていらなくなくなくない?
あ、ひととして!
ひとりの騎士としての反応か。
そうだよね。
そうだとも。
そうに、決まっている。
ロッカ卿を敬愛している。
ロッカ卿が敬愛されている。
その解釈だ。
ロッカ卿は元婚約者の敬愛を、不要だと切り捨てる筈がない。
フレックは正解に辿り着いたことに安堵して「ロッカ卿を一番敬愛しておりますとも」ちゃんと答えを口にも出来た。
「…」
「…?」
それは優しい笑みだった。
けれど何処か仄暗いものを感じた。
だからブルっと震えてしまう。
「ん、寒いか」
「あ、ひぇ…ろっかきょ…」
その震えをヘリオスフィアは大層心配し、マントを取り出しフレックを包み込む。
それだけでは足りないと、フレックを足の間に座らせ後ろから抱き締める。
過剰な、実に過剰な温もりにフレックは顔を真っ赤にさせた。
「…夏なのに、フレックは寒がりで心配だ…本当に心配だ…」
「おれ、じょーぶ、ですので、だいじょーぶですので」
「…丈夫で大丈夫な文官は、片目も片足もそうそう失わない」
もっともなことを言われてしまったフレックは、反論の言葉出せぬまま腕の中心配、本当に心配って撫でられ続けたのだった。
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