8-1
欠けた体の一部が痛むことがありますよと医師に言われたフレックは、んなことあるかいとその時は思った。
けれど失った部分が痛む幻肢痛に悩む仲間も見ていたフレックは、もしかしたらちょっと目が痛いくらあるかもなー、と楽観視。
結果として左目が痛むことはなかったが、異常な発熱に悩まされるようになったのだった。
それを、フレックは、今、思い出していた。
久しぶりの発熱に、そうだったって思い出していた。
忘れてたなーと寝癖を混ぜ混ぜ。
フレックは寝起きの身体ふらふらさせながら机に向かう。
東部に居た頃は常に出ていたアドレナリンと薬で誤魔化し働けた。
けどここ中央はアドレナリンなんて出ない平和なトコ。
まぁ解熱剤飲んだら大丈夫だろうとフレックは、東部魔境戦線で愛飲していた薬をポーチから取り出した。
このポーチは昔ヘリオスフィアがプレゼントしてくれた物で、自分を慈愛する物を入れるに相応しい物。
ちょっと覚束ない手で粉薬一包み取り出して、フレックはグビっと水で飲みこんだ。
「うえ、ニガ」
相も変わらず苦い苦い。
でもこれで大丈夫だろう。
そう楽観視したフレックは、誰にもヘリオスフィアにも申告せず、いつも通り旧生徒会室にて入力作業に勤しんだのだった。
なにやらぐらぐら、する。
あつい。
最近暑いもんね、でも涼風が出る魔道具動いてるんだっけ?
あつい…。
水を飲もうと水筒に手を伸ばしたら、そこに水筒が無かった。
フレックはあれぇ?とヘリオスフィアが置いてった筈の水筒を探した。
「…さっきおとしたんだった…」
ふろふろとした視線で整理整頓された机の上を見続けたフレックは、ないなぁーと思いながら思い出した。
のろのろ手を伸ばして掴み損ねて落として、部屋の隅まで転がって、とりにいくのめんどくさい。
そうだ、そうだった、とフレックは水筒の姿を探したが目があけられない。
今日は全然まだ終わってないすすんでないやんないといけないのに。
フレックは目を瞑ったまま、徐々に机に上半身すいよせられて。
「失礼致します、サード・ジェゴでございます。ロッカ卿へ報告書お持ち致しました」
軽やかなノックの後に元気な青年の声。
フレックはパっと目を開き「はい、どうぞ」しゃっきり返答した。
それは東部で鍛えられた反射神経だった。
だけどここはカミオカンデ王立学園、安全だからすぐに気が抜けて目がまたとじてゆく。
「失礼致します…え、トリノ殿…どうされたのですか?」
「おつかれさまですじぇごきょー…」
フレックはジェゴからいつも通り書類を受け取ろうと、したけれど体が動かなかった。
それでも口が仕事した、えらい。
そんな奇妙な様子のフレックへジェゴは近寄り顔色を確認する。
「お顔が真っ赤ですっ…失礼…っ酷い熱…!」
フレックの真っ赤な顔、その額に触れたジェゴは目を見張った。
「あ…え…ねつぅ…?」
ジェゴ卿の手は見た目に反してでっかいなぁと呑気な感想を抱いたフレックの身体を、その大きな手が「失礼しますっ」と断わりつつ抱き上げる。
フレックはおお力持ちだなぁとまだまだ呑気、なんかへらっと笑ってしまった。
ジェゴはそんなフレックをそっとソファに横たえる。
ぐったりと、してしまう。
うごけない。
めもあけられない。
フレックは一瞬気を、失った。
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