2-7

まだ夢を見ているような感覚のまま、フレックは目を開けた。

すごい夢だった。

悲しくも幸せな夢だった。

真実味があった。

だって夢の中のフレックと自分の、ヘリオスフィアが好きな気持ちが同じだったから。

だからあの夢はこれから起こる未来なんだろうなぁと、フレックは理解した。

夢の内容を、未来を反芻しながら、フレックは見慣れぬ天井をぼおっと見つめた。


「フレック、どこか痛い所は?」


それを遮るように空色の瞳が覗き込む。

鏡面する白銀の髪が今日も綺麗だ。

とても心配そうな表情を浮かべている。

まだ10歳かそこらだから親身なんだろうなぁと、フレックはしみじみ思った。


「フレック…もう二度と君の手を離さない…守る、君を」


そんな騎士のような誓いと共に手を手を取られ、フレックはこんなに強くて優しいひとを不幸にしたくないって、思ったら涙が滲んだ。


「ヘリオスフィア・ニューノ様…」


「な、ぜ、そんな、よびかたを…?」


狼狽するヘリオスフィアへ、フレックはもう二度とリオとは呼ばないと決意した。

幼い親愛はいつしか消え失せてくのを、夢の中のフレックが教えてくれたから。


「へりおすふぃあさま…」


様々な感情がフレックの内部をかき乱し、声を震わせた。

泣いてもしょうがないのに涙が溢れた。


「おれ、いままで、ずっと、わがまま、でした。たいへんもうしわけございません…っ」


フレックは夢のお陰で識った。

お願いは、わがままだった。

それもヘリオスフィアのことなんてひとつも考えてないわがまま。

酷い、醜い、わがまま。

だからもう、お願いを、わがままを、やめようって。

そしたら、悲しくて。

でも、ヘリオスフィアを困らせるわがままは駄目だって。

我慢を、しようと、フレックは謝罪を絞り出したのだ。


ヘリオスフィアは瞠目していた。

それから悲壮の皺を顔に刻み、次第、ゆっくり、優しく微笑み、フレックの涙を拭った。

氷の結晶が舞った。

フレックは目を輝かせない。

ヘリオスフィアは、それでも止まらぬ涙を結晶へと変換し続ける。


「君のわがままは可愛い。そして真の意味でわがままではない」


そんなことは無い。

今日のわがままも結果も貴族として恥ずべき行為だ。

ニューノ家にもヘリオスフィアにも迷惑を掛けてしまった。

転んで後頭部を強打して意識を失ったのだ、きっと医者の手配もしてくれただろう。

こんな上等なベッドに寝かされる、価値も自分には無いと言うのに。

きっとトリノ家も呆れている。

だから、そう告げられた言葉にフレックは嗚咽を漏らした。

耐えきれなかった。

掛布を握り締め泣き喚いた。

ヘリオスフィアが泣かないで、と涙を拭ってくれた。

頭を撫でてくれた。

そして「フレックが目を覚ました。もう一度医者を呼んでくれ」そう、命じる。

駄目だ駄目だ、駄目だ。

フレックは、これ以上は駄目だと思いながらも、ヘリオスフィアの慰めを拒絶出来なくて。

ますます絶望して。

泣き疲れ、眠った。

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